長編オリジナル小説 「平安ヒーローズ 真 竹取物語」 (2-5 物語番号12)第二章:金太郎誕生  第四話:まさかのスカウト

平安ヒーローズ 真竹取物語

それから何年か、猪谷元太と熊田信太と俺、3人による修行の日々が続いた。

今では3人共に以前とは比較にならない程の実力がついた。

私の身長も更に伸びて6尺、1メートル85センチ位に成長し、2人はもっと大きくなり、身長6尺5分、約2メートルの大男になった。力では正直負けそうだ。

私が彼らに教えられる事は、なんでも教えた。俺は2人の成長が嬉しかった。強くなるために努力を惜しまない2人に感心すらした。私の中身は大人だ。少年達のひた向きな姿勢と成長をみると本当に嬉しかった。完全に親の目線だ。

そんな俺の事を2人はリーダーと認めてくれた。私達3人は最強のチームになった。

時には山中の盗賊達を懲らしめたり、橋が壊れて困っている旅人に大木をなぎ倒して道を切り開いてあげたりと、それなりの活躍を続けてこの付近では評判になりつつあった。

                     

そんなある日のこと。

随分体格が良く、大きな斧を持った「木こり」が俺達に声を掛けてきた。

体格はと元ちゃんと同じか、それ以上の大男だ。そして俺達に尋ねた。

「近頃、この辺りの盗賊を懲らしめているのはお前達か」

元ちゃんが、答える。

「そうだ。最近では足柄山のこの辺では、盗賊が逃げていなくなった。力試しができなくて退屈しているところだ」

そう答えると、「そうかそうか、みんなが迷惑していたのに、退治してくれて偉いな。まだ子供なのに、立派なものだ」

「どうだ、俺とひとつ相撲でも取ってみるか」

元ちゃんは、その言葉に目を輝かせながら言う。

「望む所だ。やろう」

最近では、強い子供がいるとの噂を聞きつけた者達が、俺達に挑戦してくることも度々あった。

だが、大人を相手にしても俺達は3人共、誰にも負けなかった。

この男もかなり大きい。

「これはよい暇潰しになりそうだ」と、内心3人共思っていた。

元ちゃんが最初にこの男と対戦した。

元ちゃんはすごい勢いで男にぶつかっていくが、その瞬間男に跳ね飛ばされて倒れた。

驚いた元ちゃんは、きょとんとして男の事を見つめている。

驚いた。元ちゃんが負けた‥‥それも一瞬で飛ばされた。

次に信ちゃんが、「俺が元ちゃんの仇を取ってやる」と言って、男に挑んでいった。

信ちゃんは冷静に、相手の動きを見ながらの立ち合いだ。

男は凄い力で元ちゃんを押し込んでいった。

信ちゃんは押されつつも、体勢を整えて、投げ技を掛けようとしたが、男は耐えて反撃してきた。

巧みに手を取って信ちゃんの力をそらすと、合気道の様な技で手を取るとくるりと、あっと言う間に投げ飛ばして、信ちゃんは倒された。

元ちゃんが言う。

「金ちゃん。驚いた、こいつ物凄く強いぞ」

俺も正直驚いた。この時代に、元ちゃんや信ちゃんを簡単に負かす人間がいるなんて。

よし、最後は俺だ。強いライバルの出現は新たな闘志を奮い起こす。

「おじさん。今度は俺だ。2人の仇を討ってやる」

俺はそう言うと、男に颯爽と立ち向かって行った。

男は俺の攻撃を正面から受けて立った。

組んだ感触では、力は互角だ。

この男は合気道の様な技を持っているし、慎重にいこう。

先程2人の戦いを見たので、こちらは相手の戦い方にて、心の準備もできている。

それから、時折俺に技を仕掛けてくるが、何とか耐えて反撃の機会を伺う。

それから10分くらいの攻防が続いた。

長期戦になり徐々に体力が消耗されてきたが、これは恐らく相手も同じだろう。

動きがお互いに止まった。

俺は、恐らくは、最後に一瞬で攻撃を仕掛けてくるはずと読んで、カウンターでの投げをこちらも狙っていた。

そして、その瞬間は来た。俺の手を引き込んで倒そうとしてきたので、その瞬間、こちらは隙の出た相手の左足に強いけたぐりで倒そうとした。

だが、驚いたことにこの男は明らかに不意打ちのはずなのに、俺の攻撃に耐えた。

信じられない足腰の強さだ。

そしてその攻防が終わった時に男は言った。

「驚いた。坊主、強いな」

「こんなに強いのは、国中の大人でも数える程しかいないぞ」

「お前の強さはよくわかった。引き分けでどうだ。きっと当分勝負はつかないだろう」

俺もその時、正直この男なら引き分けでいいと思った。

それくらい初めて出会った強い男だった。

                        

真剣勝負をして、年齢は勿論随分違うが、何かお互いに尊敬できると感じあう事ができた。

この男は只者ではない。達人だ。武道に年齢はない。力を認めた相手は信頼できる。そう思った瞬間だった。

俺は男の問いに答える。

「おじさんは強いな。わかった。引き分けにしよう」

俺がそう言ったので、元ちゃんと信ちゃんはびっくりしていた。

俺が負けず嫌いな事を良く知っていたからだ。それを聞いた2人は目を合わせて何かに気付いた様ににっこりした。

真剣勝負をした者同士は、理解できれば、心を通わせる事ができるものだ。

その男は都の貴族、源頼光さんの家来で、渡辺綱さんだった。

俺は思った。

「源頼光の四天王の一人で、無敵の渡辺綱なのだから強いのも当たり前か」

もしかして子供相手なので、少し手を抜いてくれたのかもしれない。

渡辺綱さんは、足柄山に強い若者がいると聞いて、主の命令で様子を見に来たのだった。

俺達3人に一緒に都に行って、尊敬できる源頼光様に仕えないかと誘ってくれた。

「日本中の悪者どもを一緒に退治しよう」

その言葉に惹かれて、一緒に行きたくなった。

勿論、以前話を聞いた、一寸法師とも会いたいという事もあったのだが‥‥

元ちゃんと信ちゃんは、俺が行くのなら一緒に行くと言ってくれた。

俺達は、母親の了解が必要だと話すと、一緒に行って話してくれる事になった。

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