長編オリジナル小説 「平安ヒーローズ 真 竹取物語」 (3-1 物語番号14)第三章:坂田金時出世物語 第一話:源頼光

小説

俺達は都に着いた。令和の時代でも京都に行った事がなかったので、人生初の憧れの京都だった。

但し、1000年も前の京都だけれど‥‥京都は、この平安の時代でも、道行く人が数えきれない程多い。

この街を行き交う人々の服装や装飾品なども、田舎とは違い華やかな色が使われていた。それを見るだけでも、華やかだった令和の時代の人々の服装を思い出させる。

なんとなくではあるが、時代劇映画やドラマを見ていると錯覚する程の雰囲気もある。

それにもうひとつ、ここ京都の街のあちこちに漂う様々な匂いが印象的だった。

お香の匂い、様々な出店で売られている料理の匂いが街中に漏れていた。嗅覚からも以前の世界で経験した様々な懐かしい記憶が蘇った。砂糖や醤油を焦がした香ばしい匂いが、やけに食欲をそそる。

おそらくみたらし団子や、煎餅の様なものを作っているのだろう。

まるで令和の時代の観光地や、門前通りの様だった。

こちらの世界に来ていつも思い出さない様にはしているが、ちょっとしたきっかけがあるとついつい家族の事を思い出してしまう。会えない時間は、愛する気持ちに拍車をかける。

改めて元ちゃんも信ちゃん皆の様子を見ると、目に入るものがどれもこれも初めてで物珍しいのか、きょろきょろと辺りを見回している。

二人の表情をまじまじと見ると、都に来て楽しそうなのがすぐにわかった。

俺達があまりに物欲しそうにお店の中を覗いていたので、見かねた綱さんは、串に2、3個の丸餅が刺さった炙り餅をごちそうしてくれた。

俺達が何十本も食べるものだから、途中から綱さんはすっかり呆れていた。

しまいには笑いながら「お前らの食い扶持はこれから随分かかるだろうなあ。しっかり働けよ」

そう言いながら店の主人には嬉しそうににこにこしながら「もっと餅を持って来てくれ。店にある分全部だ」と言っていた。

京都での食も、このうえのない懐かしい匂いも、俺にとっては、こらから始まる都の日々の生活への明るい未来を予感させる。

俺がそんな事を思っていると、綱さんが「お前ら、今から直ぐに頼光様に会いにいくぞ。くれぐれも失礼のないように」と言って急に歩きはじめた。

俺達も慌ててその後を追いかけていった。

京に来て早々に、源頼光さんへ紹介される事になったのだ。

綱さんに後で聞いた話では、頼光さんに有望な若者である俺達3人を、一刻も早く紹介したかったそうだ。

頼光さんの屋敷は都の中でもひときわ大きく立派なものだった。

それから、早速屋敷に入り、早速頼光さんに紹介された。

綱さんは「頼光様。この3人が、私が全国を捜し歩き、これはと見込んだ若者達でございます」

「3人共、武芸に長けており、ご覧の通り立派な体格。おまけに田舎に生まれて、勉学の師匠などいないのにも関わらず、信じられない事に3人が3人とも文字の読み書きもできて教養もございます」

そう説明してくれた。

頼光さんは「綱。よくぞこの様な立派な若者達を都に連れて来てくれた。ひと目でこのものどもが見どころある若者達である事がわかったぞ。三人共これから更に修行と経験を積んで、この国の民と帝の為に大きな働きをしてくれ」

「3人には、住む家と、食事などを作ってくれるものを手配しよう。それから明日から早速、京都の町の警備を行ってもらう。綱の配下で仕事に励んでくれ」

頼光さんは、上機嫌でそう言った。

頼光さんに最初に会った印象は、身なりも人柄も「ひとかどの人物そのもの」という感じだった。さすがに綱さんが一生を捧げる覚悟をした人だ。

それに、初対面の俺達の話も兎に角良く聞いてくれた。令和風に言えば、傾聴力にも長けた人だ。

平安時代にもこんな人がいるなんて驚きだった。

この人の為なら、命を懸けて一緒に戦えるかもしれないと、一瞬で思わせる人だと感じた。

それから頼光さんに、俺は死んだこの平安時代の自分の父親についても話をしてみた。

すると頼光さんは「なんと懐かしい。おぬしの父親は蔵人をしていた坂田殿か。良く存じ上げておるぞ。誰に対しても、特に弱い立場の者に対して面倒見が良く、優しく接してくれた素晴らしい人だった」

「若い頃、私もお父上に随分お世話になり、自身の目指すべき方向を決めるのに影響を受けた方だ。あの坂田殿の息子が私の元に来てくれた、これは驚きだし何かの縁に違いない。とても嬉しいぞ」

「そうだ、金太郎。ひとつ聞く。お前が京に来ようと決断してくれた理由を教えてくれ」

と頼光さんは俺に聞いて来た。

俺は、頼光さんの目をしっかりと見て話した。

「先ずは、自分自身、何処まで強くなれるか試してみたいのです」

「それから手柄を沢山あげて、偉くなり機会を頂けることができたら、政で国への貢献もしてみたいと思っております。この都で自分が何者かに成れるかどうかを試してみたいのです」

俺はそう答えた。

頼光さんは、「お前は、見かけはまだ子供なのに、立派な志だな。面白い、思うままにやってみよ。何かあれば何でも相談せよ」と大声で笑いながら答えた。

「そうだ、こらからお前には立派になって貰うのに、名前が金太郎というのもなんだな」

「こらからお前には黄金の様に輝き、お前自身と国の為、価値のある人生を歩んで欲しい。これからは金時、坂田金時と名乗るがいい」

そう言ってくれた。その日、京の街や民の暮らしなど、頼光さんとは様々な話をした。

頼光さんは令和の時代で言えば、文武両道の上、人間性にも魅力があり、明らかに令和風に言えば、経営者としても、管理者としても優れた上司と確信した。

それに俺の父親の事を知っていてくれて、褒めてくれたことも何となく共感できたし、嬉しかった。

その後、俺達の最初の任務、治安維持の為の夜間警備の仕事が早速始まった。

先程は、都の華やかな部分を話したが、この街は少し裏通りに入ると、犯罪や貧困に溢れた裏の顔もあった。夜になると盗賊があちこちに出没し、治安面で言うとかなりヤバい街だった。

強盗、強姦、殺人等なんでもありの無法地帯。都の人々は怖くて、一人で夜の外出なんかとてもできる様な雰囲気でなかった。

頼光さんは当時、検非違使という役職についていて、都の治安維持の責任者だった。

都は事件も多く、当然、俺達は忙しい日々を過ごす事となった。昼夜を問わず出動し、盗賊共と戦う事となった。

貴族の家にさえ、というかむしろ裕福な貴族の家がターゲットになって盗賊が押しかけて来た。

俺達は、次々とそいつらをやっつけた。一晩で4件も戦った日さえある。

毎夜、盗賊がいると聞けば、直ぐに飛んで行った。時にはかなりの使い手もいて、命のやり取りさえする場面もあった。そして、そんな生活を、暫く過ごしているうちに、俺達の強さは都中に轟き渡り始めていた。剣の腕も実戦を積んで、ますます上達していた。

最近では、綱さんを含めた俺達4人の事を「頼光四天王」と都の人達が呼ぶ様にさえなっていた。

ちなみに平安時代の盗賊と一言に行っても、もちろん本物の盗賊一味もいたが、それとは別に裏で貴族が盗賊共のスポンサーとなって報奨金と武器を一味に提供して、金銀を強奪させたり、場合によっては政敵を襲わせて殺すというたちの悪いパターンさえも存在していた。

今までの京都の歴代の検非違使達は、そんな都の一部の盗賊達の裏の顔も薄々知っていた。

賄賂で一部の犯罪を見逃したりもしていた事さえあったのだそうだ。

それではいつまで経っても治安は良くはならない訳だ。

頼光さんは、そんな時代には珍しく清廉潔白な人だった。

「悪い奴は徹底的にやっつけろ。最初は退治しても次々と新しいのが出て来てお前達もキリがないと思うだろう。だが、最終的に盗賊の資金源を断ちさえすれば、その黒幕の貴族達は盗賊を雇う資金が無くなって、盗賊達の不満が募れば根を上げてしまい都から撤退するだろう」そう言っていた。

さしずめ、俺が暮らしていた時代で言えば、少し前の米国ニューヨーク市のジュリア―二市長の徹底した治安対策で、安全な街に変貌したみたいな感じだろう。

俺も頼光さんの考えに共感していた。

一方でそんな頼光さんだからこそ、盗賊からも腹黒い貴族達からも、両方から目の敵にされて、命さえ狙われる事もあった。

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