長編オリジナル小説 「平安ヒーローズ 真 竹取物語」 (3-2 物語番号15)第三章:坂田金時出世物語 第二話:土蜘蛛との戦い

小説

頼光さんの所で働くようになってから、早いもので2年の月日が過ぎていた。

俺達は、都だけではなく、時には都の外まで出動した。多くの悪名高き盗賊達を討伐し、数えきれない程の手柄を立てていた。

そんなある日の事。

突然、頼光さんが原因不明の病気に伏せった。高熱で、意識を失って倒れたのだ。これは後で分かった事だが、屋敷に紛れ込んでいた間者、現代で言う所のスパイによって薬を盛られたのである。

下働きをしていた人が好く真面目そうなその男は、悪事がバレない様、毎日少しずつ頼光さんの食事に毒を盛っていた。

そして終には、満月の日の夜、寝たきりになってすっかり体が弱っている頼光さんの暗殺を謀ったが、頼光さんは力を振り絞って、枕元の天下の宝刀「膝丸」で間者に一太刀浴びせ撃退した。

「誰かおるか。そのものを捕まえよ」

頼光さんはそう叫んだ。内部の者による襲撃は想定外だった事だろう。

屋敷の周りで警護をしていた俺達3人は、頼光さんの声を聞いて、僅かな手勢と共に間者を追った。

綱さんも慌てて俺達の後をついてきた。

恐ろしく足の速い間者は、都の西に向かって逃げていった。

追撃を続けていたが、都から少し離れた郊外の屋敷付近で、奴の姿は消えてしまった。

この辺りは、帝や都の貴族達と敵対している、かなりの兵力と財力を持つ豪族の勢力エリアで、豪族は土蜘蛛と呼ばれていた。

その豪族は、武芸も知力も優れ統制力もあり守りも固めていた事から、普段はそのエリアには容易に近づく事はできなかった。そしてその頭領は力も強い上に武器や仕掛けの扱いにも優れ、あらゆる意味で戦闘能力が高く、当代一の攻撃力を持つ盗賊のリーダーだ。

今まで、数えきれない程の検非違使の兵士達が殺されていた。恐らくこの屋敷は奴らのアジトだろう。アジトの中には、どれだけの兵力がいるかは分からない。

私達は、攻撃する際のリスクはあったが、頼光さんを襲い、命を狙った犯人を逃がす事などできない。その勢いで、後先考えずに門を破り果敢に踏み込んでいった。

目の前には法師の姿をした2メートルはあるかと思われる大男と、30人ばかりの兵士がいて、戦闘態勢で、突入して来た私達対と対峙した。

頭領と思われる大男は大胆不敵にも、私達四天王を前にしてニヤニヤしながら言った。

「頼光の四天王よ。そんな僅かの手勢で来るとは土蜘蛛も舐められたものだな」

「二度と生きて都には帰れないと思え」

そう言った瞬間、大男とは思われない程、信じられないスピードで長くて太い刀を使い、あっという間に兵士2人の首を刎ねた。

その太刀は、1メートル50センチはありそうな長いもので、見た目は一般的な日本刀とは明らかに違っていた。刀の厚さも普通の物と比べると2倍か3倍あり、どちらかというと西洋の剣の様だった。

ただ、その両面ともに極めて鋭利な刃物になっていて、心なしか黒光りしている様にも見えた。

俺達も、仲間がやられるのを黙って見過ごせず、条件反射で土蜘蛛一味に対し、反撃に出た。四天王も、あっと言う間に2、3人ずつ倒した。

敵は残り20人程だろうか、こちらは2、3人やられているからあと10人程だ。

綱さんから指示が出る。

「俺があの大男とやり合うから、その間にお前達は雑魚共を片付けてくれ」

その声を聞いた瞬間には、元ちゃんも信ちゃんも左右の敵をなぎ倒していた。

俺も2人に負けまいと、正面の敵へと切りかかる。

それから暫く激しい戦いは続いた。10分程経った頃だろうか。

夢中で雑魚共を片付けた頃、土蜘蛛の頭領と綱さんが戦っている方を見ると、信じられない事に綱さんが奴に押されていた。おまけに体中、今まで一度も見た事も無いほど血だらけでやられ苦戦している。こんな綱さん‥‥あり得ない。綱さんは、既に左手に深手負い、瀕死の状態になりつつも、右手1本で応戦していたのだ。

俺が「綱さん。大丈夫か」そう言うと、綱さんは苦笑いしながら、「大丈夫かと言われれば、ご覧の通り大丈夫ではない。不覚にも左手をやられた。こいつは腕も立ち力も強いうえに、卑怯な戦法にも長けている様だ。体のあちこちに仕込みがあって、何処からともなく網や矢、手裏剣も飛ばしてくるから気をつけろ」

そう言った。

俺は急いで綱さんの所へ行って、助太刀をした。

その瞬間に綱さんは力尽きたのか倒れ込んだ。

早速、土蜘蛛の頭領と剣を交えた。ひと太刀交えたが直ぐに綱さんが言っている意味が分かった。確かにこいつの剣は過去に経験が無いほど重く、与える圧も尋常ではない。

こんな強敵は初めてかもしれない。急いで一歩引いて間合いを確保した。

その時、土蜘蛛の頭領は俺を挑発する様に言い放った。

「この臆病者が」

「逃げるだけなら誰でもできるぞ。笑わせるな、それでよく四天王などと言っているな。若造かかってこい」

そう叫んだ。

臆病ものと言われて挑発されてはいたが、心はなぜか踊っていた。都にきて初めて出会う強敵だ。本能的にこいつと戦う事を楽しんでいた。

俺はじりじりと間合いを詰めて、一撃で仕留める気でいた。

こいつは大きすぎる。奴について言えるのは、上段の構えで攻めてはダメだ。

大きすぎてとらえ切れない。

先ず上段で構え、最初の攻めで、奴に上部でその刀を受けさせる。その瞬間に空いた下のスペースに飛び込み、最後は喉を突いて仕留める。その瞬間、俺は戦い方についてそう決めていた。

1歩、2歩と間合いを詰めてから、上段からの一撃を見舞った。

気合で「メン」と叫び上から思い切り振り下ろす。

奴は予想通り、俺の刀を受けた事で、自然と受けた剣が右に大きくスイングして体の中心から離れる。そして俺に向かって振り下ろす体制を作るまでの一瞬のスキをついて、「ヤアー」と気合の掛け声と共に奴の懐に飛び込み喉を突く。

「仕留めた」そう思ったその瞬間、至近距離で奴の両肩から小さな仕込み矢が、2本同時に俺に放たれた。

俺はその1本の矢を防ぐのがやっとで、もう1本の矢を右肩に受けてしまった。

それから奴は、俺を仕留めるべく上段から、渾身の力で俺の頭に剣を振り下ろす。

カーンと言う音と共に、俺の刀が真っ二つになり、刀の上部が彼方へと飛んでいく。

俺の手には30センチ程の短くなってしまった刀が握られていた。こんな短い刀では、恐らく奴の太刀をもう一度受けるのは至難の業だろう。

そう思ったその瞬間、奴は、速攻で俺に攻撃を仕掛ける。また上段だ。鬼気迫る表情で、俺に襲い掛かる。そして奴が振り下ろした瞬間、俺の目の前に大きな影が走った。

「カーン」

その太刀を正面から受ける。

信ちゃんだった。信ちゃんは刀の腕はともかく、力では土蜘蛛の頭領にも負けないだろう。この頃の信ちゃんこと熊田信太は既に身長が2メートルを超える大男になっていた。

「大丈夫か、金ちゃん」

そう言って俺の前に立ち、土蜘蛛の頭領に対峙した。

「今度は熊か。図体だけは噂通りでかいな。まあ木偶の坊だろうがなあ」

「お前ら位の腕なら、まとめて始末してやる」

土蜘蛛の頭領は、今度は信ちゃんを挑発する。

その時、もう一つの影が凄いスピードで信ちゃんの横に来る。

元ちゃん、猪谷元太だった。2人は既に土蜘蛛の頭領以外の全ての敵を倒していた。

俺達は3人で土蜘蛛の頭領と対峙した。

この期に至っても、奴は俺達に挑発する。

「弱い奴らは群れをなす」

「一人ではかなわないと悟って、弱いもの同士が身を寄せ合うとは、四天王もその程度か。大したことはないな」

「お前らも、少しはプライドがあるなら、正々堂々と1対1で戦いの名乗りを上げて俺に向かって来てはどうだ」

こいつは頭が切れると思った。3対1では勝ち目がないと早々に判断して、瞬時に俺達を分断してきた。そう思った。恐らくこいつは自分自身はそのルールを守っていないだろうが、平安時代の戦いの「正々堂々とした1対1の戦い方の流儀」を知っていて、それを悪用しようとしている。今までも同様の対応で複数と戦う不利な局面で利用してきた常套手段なのだろう。

こちらは令和の世界から来た、合理主義を会得した人間だ。流石にこんな手には引っかからない。

そう思った瞬間、元ちゃんは早速奴の誘導に乗ってしまっていた。大声で「俺が奴を仕留める」と叫び、挑もうとしている。

俺は慌てて「元ちゃん、これは奴の陽動作戦だ。3人を相手にかなわないと判断して、俺達を分断させて1人ずつ倒そうとしている」

そう伝えた。

信ちゃんも「元ちゃん、ここは冷静に3人の一斉攻撃で仕留めよう。必ず勝てる」

すかさずフォローする。

流石、冷静沈着な信ちゃん。足柄山で、3人で学んだチームプレーによる戦い方や戦闘時における、勝利に向けての確率理論を理解しているだけの事はある。

その時に3人で考えた戦い方の方針は、体裁にはこだわらず勝利にこだわる。

この時代の戦い方の流儀には反し、卑怯と言う人もいるのかもしれないが、ある意味、平安時代にはない戦い方であり、効果的かつ、勝率が高くなるものだった。

実際には、こういった勝利にこだわる効率的な戦い方は、室町末期の織田信長位まではあまり見当たらず、随分あとの戦い方でこの時代には存在しない、ある意味最新のスタイルと言えるかもしれない。

元ちゃんは納得した様子で「よし、分かったどう攻める」と言った。

俺は「菱形」の陣形でいくと言った。

「よし」と言った瞬間に元ちゃんが一人奴の正面に立ち、俺達はその後ろに左右に分かれて立った。

俺達があらかじめ決めていた陣形のパターンは相手の人数や強さのレベル、持っている武器等でいくつかあった。

この「菱形」陣形は、特に3人でかなり研究して練習もかなりしてもので、相手が一人かつ強敵な場合に有効なものだった。

相手が一人の場合、この陣形で攻めれば、敵は両腕で2回の攻撃が同時に防げるが、同時に仕掛けられた3回目の攻撃は防げない、要は、腕が2本しかないのだから。

そこを考慮して3人同時に太刀で攻撃するパターンだった。

俺は右肩を負傷していたので、左手で中型の刀を持ち、元ちゃんの左側に控え、新ちゃんが右に構えていた。この辺も3人の阿吽の呼吸で反応する。

同時に叫んだ「よし」の掛け声の瞬間、俺達は土蜘蛛の頭領を攻め立てる。

奴も面食らった事だろう。今までの戦いと違って、相手が挑発に乗らず、迷わず攻撃してきたのだから。

元ちゃんが突きで剣を向け、新ちゃんは上段から振り落とし、俺は左手1本で奴の懐に飛び込んだ。

元ちゃんと信ちゃんの太刀を奴は受け止め切ったが、予想通り、3本目の俺の一太刀は流石に防ぐ事はできなかった。そして奴の仕込み矢の事も密かに心配していたが、幸いな事に飛んで来なかった。

恐らく綱さんと俺への攻撃で、仕掛けが尽きていたのだろう。俺は一撃で奴の心臓を貫き、息の根を止めた。

これが後に、国中で噂され伝説となった「四天王と土蜘蛛の戦い」で、戦いの勝者は勿論俺達だった。

国中を震い上がらせていた凶悪集団「土蜘蛛一味」最後の瞬間だった。

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