長編オリジナル小説 「平安ヒーローズ 真 竹取物語」 (4-5 物語番号26)第四章:真竹取物語 第五話:ビジネスパートナー

小説

それからかぐや姫は、簾の奥から出て来て、俺の前にその姿を現した。

眩しさにやられた視力も少し回復し、かぐや姫の姿を見る事ができた。予想通りと言うべきか、かぐや姫の部屋の後ろ側には移動可能なパネル型ライトとバッテリーが置かれていた。

ついに俺の前に姿を現したかぐや姫は確かに美しかったが、この時代で言う所の体も顔も少しふっくらした平安美人という感じではなかった。

どちらかと言うと令和の美人で通用するタイプで、更に言えば、令和の人間より顔も小さい感じで、体格もひと回り細くしたタイプだった。

ただ、かぐや姫を一目見た印象が、どことなく有紀さんに似ていたので、彼女への第一印象ではとても好感を持った。

かぐや姫は言う。

「私がこんなに細くて、おまけに小柄で驚いた事でしょう」

「あなたには私の本当の姿をお見せしましたが、この平安時代の人々には、普段この様な姿には見えていないのです」

「この時代で生き残っていく為に、私自身、平安時代の人達にとって好意を持たれる理想的な外見で見えるように、開発されたツールを使ってバーチャルで人間像を投影していました」

「あなた達の時代ではVRとかXRと呼ばれていた技術の様なものです」

俺はかぐや姫の顔を見ながら、ついつい笑顔になっているのが判った。

そしてかぐや姫に、今まで俺の身に起こった事について必死に話をした。

「かぐや姫、どのような事情かは分かりませんが、協力できることがあれば話してください」

「もとより妻も子供も令和の時代にいる為、貴方との結婚を望んでいる訳ではありません」

「私は令和の時代で、一度死にました。そして記憶が残ったまま、この平安の世で、新しい人間として生まれ変わったのです」

「今日まで長い年月、この時代で過ごしてきましたが、私の望みはただひとつだけです」

「令和の時代に戻って愛しい家族に再会し、一緒に暮らす事です。かぐや姫。もしタイムマシンを使えるのならば、私に利用させてもらいたいのです。その為であればなんでもします」

かぐや姫は俺の話を聞いていた。

未来人はもしかして感情表現が退化したのだろうかと思えるほど無表情だ。もちろん演技かもしれないが、彼女は嬉しいのか悲しいのか、困っているのかさえ判らない。

暫く沈黙の時間が過ぎた。

そしてようやく彼女は話を始めた。

それは、かぐや姫自身の身の上についてだった。

かぐや姫は話を始める。

「まず何からお話ししましょう」

「そう、あなたは令和から来たとおっしゃいました。たしか令和は2020年頃から始まった年号ですね」

私が答える。

「そうです、昭和、平成の年号の後が令和になります」

彼女は頷きながら話を続ける。

「私が暮らしていたのは2199年ですから、令和から150年位後になります」

「ちなみにタイムマシンは、2129年に発明されます。あなた達の時代から丁度、100年くらい後になります」

「ですから、もしあなたがタイムマシンでこの時代に来たとすれば、誰か貴方より後の時代の未来人が連れて来たのだと思います」

「私が暮らしていた時代のルールでは、他の時代の人をタイムマシンに無断で乗せる事は重大な違反行為となり基本できません」

「私の仕事はタイムマシンの不正利用の取り締まりや利用防止。不正利用が行われた事によって歴史が変わってしまう重大事故の未然防止。無断で過去の歴史が書き換えられた場合に、原状修復をする事です。職業としては、タイム管理官と呼ばれています」

俺は、そんな彼女の話を聞きながら喜びの感情を抑える事ができず、思わず微笑んだ。

長かったが、ついに俺はここまでたどり着いた。

令和の時代の有紀さんや香に再会できそうだ。

それから、かぐや姫は、彼女が暮らしていた時代についても、話せる範囲で、丁寧に説明してくれた。

きっと、俺の不安を解消する為だろう。

彼女達の時代は、生まれる前から遺伝子操作が実施され、将来の職業に相応しい人間を誕生させ、その分野のエキスパートとしてカリキュラムに基づいて育てられる。

タイム管理官として想定されたスペックは、頭脳明晰、冷静沈着で体力もあり、極度の緊張に長時間耐える事ができる等の特性を備えているとの事だった。

令和の世から170年後の時代、人間の遺伝子操作は禁止されておらず、むしろ生殖機能が退化した為、言い換えれば人類が生き残っていく為、人口を増やし、生まれる人間が効率的に生きていく為に、それぞれの人が各分野のエキスパートとして存在する世界だった。

また、未来人は人としての名前はなく、その個体独自のコードで管理されている。

ちなみにかぐや姫の人物コードNOは「18  L23 RTGK##876399」。

平安時代、かぐや姫は「なよ 竹のかぐや姫」、「竹姫」、親が竹取の翁なので、そんな風に呼ばれている。

かぐや姫の今の年齢は28歳。遺伝子操作されて育った体は事前想定通りの身長150センチ。

タイム管理官は、ストレスや空気、食べ物等、環境変化が体に与える影響を考慮し、実際のタイムワープは生涯に3回程の往復が平均で、通算での他の時代で暮らす期間は30年程になる。

彼女にとってこの平安時代のミッションは最初のミッションで、彼女自身、平安時代に来てから5年目だった。

翁や周りの人達の記憶をコントロールして、20年前に生まれたという事にしている。

彼女は言った。

「今の職業柄、普段あまり自分の事については話しません」

「ましてや他の時代の方であれば、なおさらです。ですが、貴方にはなぜか話してしまいました」

「貴方を見ていると、とても他人とは思えない気がします」

「それに私は、今とても任務遂行に向けて困っています。できればあなたに協力をして頂けないかと思っています」

「私は、この時代に3人のチーム編成で来て活動していました」

「私以外の2人は戦闘員タイプのスペックでしたが、他の2人は少し前に盗賊団との戦いで殺されてしまいました」

「状況を上司に報告しましたが、他の時代で世界が破滅する可能性がある大事件がいくつか同時に起こっていて、そこにほとんどのメンバーや戦闘ロボットが投入されて、当面こちらは単独で活動しているのです」

「私は戦闘型のタイプではなく、今回、特に盗賊団への打ち手が限定されてしまっていて困っていたのです」

「重ねてお願いします。私に協力して欲して下さい」

「無事にミッションをクリアしたらあなたを令和の時代に帰れるように尽力する事を約束します」

「どうでしょうか。了解して頂ければ詳しいミッションについてお話しします」

急にそんな事を言われて、私は一瞬言葉に詰まったが他に選択肢はない。覚悟を決めて答えた。

「私ができる事は何でもお手伝いします」

喜んだ表情でかぐや姫は言う。

「では、契約成立ですね。ミッションについて詳しくお話しします」

私達は互いの秘密を共有し、何か強い信頼関係が生まれた。

それから彼女は改めて令和の時代に帰るという俺の願いについて、歴史修復の任務の一部と上司に倫理審議会で認められれば可能だと説明してくれた。

彼女の現在の任務についても話してくれた。

「私が今の任務は、盗まれた未来のツールを取り返し、その犯人を特定し逮捕する事です」

「未来の私達の時代には、タイムマシンを不正に乗り回し、様々な時代の宝や、珍しいツールを盗む盗賊団がいくつかいます」

「その中の一団が、この平安時代に秘密のアジトを設けて、それらを隠していると判明したのです」

それから、俺がいろいろと質問攻めをしたので、他にも様々な事を教えてくれた。

タイムトラベル先の時代での結婚は調査員行為としては許されるが、出産行為は歴史を大きく変えることになるので禁止されている。

また、かぐや姫は、他の時代から来た為、出自のあいまいさをごまかす為、竹藪のそばで拾って帰ってきたとおじいさんとおばあさんという記憶をインプットしコントロールした。

これは最終的に月から来たという設定で去る事を前提にシナリオが書かれている為だとも言っていた。

そしてついに、俺とかぐや姫は、相互に納得して、正式にビジネスパートナーとなった。

竹取の翁には、かぐや姫に求婚を断られたと丁寧に話して、理解を得たものの、何度も残念だと愚痴っていた。

それはそうだろう。

年老いた翁が、また姫の花嫁姿を見る事が叶わなかったのだから。

それからかぐや姫は、100倍以上モニターパネルの大きさが変更できる伸縮型リモートモニターや、指や眼鏡グラスを利用してバーチャル操作が可能な体感型モバイルPC、10年はバッテリーの利用が可能で大きさがわずか3センチ四方の核燃料型マイクロバッテリー等、かぐや姫は凄いツールも俺に貸してくれた。

それから定期的に彼女とコミュニケーションを取り、盗賊団について、いくつかの重要な事実の共有を始めた。

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