長編オリジナル小説 「平安ヒーローズ 真 竹取物語」 (4-7 物語番号28)第四章:真 竹取物語 第七話:決戦

小説

それから数日後。

盗賊団リボーンピリオドから桃さんに予告状が届いた。

文面は、以下の様に簡単なものだった。

「桃太郎殿。今夜、子の刻。以前申し上げた通り、お預けしたお宝の全てを頂戴に伺う」

俺達は、桃さんの屋敷に集結して身を潜めた。

帝にお願いして千人規模の兵士も派遣してもらっていた。

帝には、俺達3人の朝廷幹部が別々に会う機会を得て、それぞれが口を揃えて説明した。

「月の人間達がこの国に参ります」

「実はかぐや姫は月の人間で、今回姫を取り戻しに参ります」

「同時に都を攻めてくるかどうかは判りませんが、御所とかぐや姫周辺の警備に兵士を多数派遣せねばなりません」

「また、今回は警備しやすい様に、中納言石上麻呂(いそのかみのまろ)の屋敷にかぐや姫も移動させ、いざと言うときの為に迎え撃つ準備をいたします」

帝は当初驚いていたが、俺達があまり真剣に言うものだから最後は信じて、詔を出してくれた。

平安時代の人々には不思議な出来事を簡単に理解し、存在を信じる度量がある。

これは俺がこの平安時代に来てからずっと感じている事だ。

頼光さんも四天王の皆も今回喜んで協力してくれた。久しぶりに5人揃っての戦いに皆、いつもより気持ちが高ぶっている模様だった。

戦いの準備は揃った。

子の刻が近くなると、桃太郎の屋敷には屋根の上や木の上、庭や全ての門には兵士でびっしりと埋めつくした。

頼光さんと四天王は姫の部屋の横で、桃さんに仕える犬力、雉達そして猿動は桃さんを助ける為に、その傍に控えている。

丁度子の刻頃。

今夜は、は新月で真っ暗だった。

しかし、その闇を切り裂くように、上空が突然光り輝いた。

その眩しさで前の物が見えなくなる程だった。

兵士たちはそれを見て混乱し、数え切れない程の矢を闇雲に空に向かって射った。

それからすぐに、少し前が全く見えない程の霧が立ち込めた。

その霧にのまれた兵士たちは、眠る様にばたばたと倒れていく。

俺や姫、桃さん、法師は予め、姫から借りた防御用フェースガードをつけていたので、幸い眠らずにすんだ。

それから空から数百体の強烈な光を発する無数の戦闘型ロボットが地上に降り立った。

沢山のぐったりと倒れている兵を尻目に、悠々と桃さんのお宝の所へと向かって行く。

そしてロボットの中の1体がそのお宝に触れた瞬間に、仕込まれていたマイクロクレア波発信機能が起動した。

その瞬間、ロボットが機能停止してばたばたと倒れていく。

その時、俺が、ロボットの乗っ取りプログラムの起動装置を持っていた。

姫が俺に向かって大声で叫ぶ。

「金さん今です」

「直ぐにスイッチを押してください」

だがスイッチを押してもプログラムは起動しなかった。

ロボットが再起動しないので、ロボットをコントロールできない。

「姫、もう押しているけど、ロボットが反応しない」

俺がそう言うと、姫は答える。

「リセットしてもう一度押してください」

そう言われて俺はリセットしてスイッチを再度押したが、やはりロボットの反応はない。

更にもう一度試みるが、がそれでも反応はない。

姫はその様子を見て言う。

「このツールはタイム警備官としては3度目の利用となります」

「恐らく彼らがロボットプログラムに何らかの対策をしたのかもしれません」

そうか、乗っ取りを防ぐプログラムを加えたのだなと合点した。

幸いな事に、ロボットの全機能は停止したままなので、少なくとも敵の戦力は大幅ダウンしたままの状態だ。

流石にマイクロクレア機能への対策は、まだ未対応だと理解した。

俺達の作戦は半分成功して、半分失敗した。

しかしその時、機能停止したはずロボットの中の4体が動いているのが目の前で確認できた。

闇夜で光り輝いて動いているから、彼らの事は目視で簡単に確認できる。

きっとマイクロクレア波に反応しない、この動いている4体こそが、生きている人間の盗賊団のメンバーに違いない。

そうとっさに判断した。

その4体のうち3体は俺達に向かって来ている。

そして1体だけは、逆に急いで逃げ出そうとしている。

俺はとっさに気を失っている兵士の剣を拾って、逃げ出そうとしている1体に投げつけた。

敵も想定外の出来事が突然起きて、余裕がなかったのか無防備で、俺の剣はそのロボットの背中を簡単に捉えた。

そもそも未来の盗賊団は戦闘型ロボットに戦う事を依存しているだろうから、生きている人間は戦士としての能力はそれ程でもないのだろう。

その1体は、ばったりと倒れて動かなくなった。

問題は、残りの3体だ。

この3体は特に逃げ出さず、俺達の方へ凄い勢いで向かって来ている。

それに只者ではない殺気だ。

俺は皆に向かって大声で叫ぶ。

「姫と法師は2人で一緒に敵一人を相手に、俺と金さんは敵と一対一でそれぞれ戦おう」

それから俺達は、3方に分かれてそれぞれのロボット姿の盗賊団に対峙する。

姫は、俺達3人の為に、予め未来の武器を準備していた。

しかし、今回はマイクロクレア波で、機械の機能を停止させたので、俺達が持っているエアー型防護服のバーチャルシールド、レーザーガンの機能を持つスペース銃、盾の機能も持つライトブレイドも使えなかった。

まあ盗賊団も同じ条件なのだから十分勝負できる。

しかも相手は生身の未来人。

その時はそう思った。

俺達は平安時代の武器である剣と槍で勝負を挑む。

どちらかと言うと俺や桃さんにとっては得意分野だ。

俺は、すぐに一人の盗賊団と対峙したが、その瞬間、敵は物凄いスピードで俺に立ち向かって来た。

両手で、長い剣と中ぐらいの剣を持ち、2刀流で挑んできた。

居合の技や、一見無防備な様相から突然、切り上げる剣先。

こいつ、只者ではない。

驚くべきことに、恐ろしい程の剣の使い手だった。

少しでも油断するとこちらがやられてしまうレベルだと直ぐに分かった。

こちらは、その剣先をかわすのがやっとで、反撃さえできない。

この平安の世で、日々強敵を相手に戦い、負けなしのこの俺がもしかしたら負けるかもしれないと初めて思うほどの相手だった。

今まで戦った中で最強とも言える土蜘蛛より正直手強かった。

姫は、事前に俺達への説明で、未来人は身体能力の中で特に肉体的に退化し、特別な訓練を受けたものを除いて、労力や戦闘では殆どの場合ロボットに依存していると言っていた。

それを聞いていたので、俺が戦っている相手の尋常ではない強さは本当に意外だった。

心配になって皆を見た。同様に苦戦している。

俺が最初に、刀を投げて倒した敵は、もしかしたら油断していて偶然やられたのかもと、そう思った時は既に遅かった。

剣を幾度か交えるが、あっと言う間に押される。

こいつとは命のやり取りになる。改めてそう思った。

このまま防御だけではやられてしまう。

そう思った瞬間、俺は思い切って反撃に出ていた。

攻撃は最大の防御だ。

そうとっさにそう判断して、捨て身の攻めだ。

俺の渾身の技を次々と仕掛けて局面の打開を試みた。

だが、俺が攻撃する度に、俺の剣は、まるで水を切る様な無感触な手ごたえ感だけが残り、敵は難なく攻撃をかわしていく。

暫くの間戦いが続いていた。

そして、敵も俺の意外な強さに驚いた様子だった。奴が俺の実力を認めた証拠に、呼吸を整える為に少し体を後ろに引いてから、動き易いように着ていたロボット服とフルフェースヘルメットを、勢いよく脱ぎ捨てた。

俺はその顔を見て驚いた。

奴の正体は、令和の時代、昔から俺が修練した道場に飾られていた宮本武蔵その人だった。

そりゃあ強い訳だ。

正真正銘の剣聖。

俺は、生涯負けなしで、史上最強の剣豪と言われる宮本武蔵と剣を交えていたのだ。

武蔵は、益々集中力が研ぎ澄まされていくのが、気配で感じされた。

俺も、戦う相手として不足なしと思い、自分でも武者震いするのが判った。

この平安の世で子供の頃から修練し、京に来てからは、四天王として戦いの日々を過ごして腕を磨いてきた。

武蔵との戦いは、俺にとってもこの時代の戦いの歴史の命を懸けた集大成となる。

自分で言うのもなんだが宮本武蔵対坂田金時、歴史上稀にみるゴールデンカードだ。

やってやる。一層気合が入る。

この勝負は一瞬でつくに違いないと思った。

緊張の時間は流れていき、俺は極限まで集中力を高める。

戦いの局面が大きく変わる。

突然、武蔵が俺の視界から消えた。

俺は、あまりの速さに、消える瞬間が見えなかったが、武蔵は上に飛んだだろうと確信した。

かつて吉岡一門や、佐々木小次郎との勝負伝説を知っていたからだ。

武蔵必殺の攻撃パターンだ。

だが、上に飛べば、その後は下に落ちるしかない。自然の原理だ。

この想像もつかない奇抜な動き。

一瞬での判断は難しく、その事に気付かなければ上の者が有利だ。

しかし、上にいる事が予め分かっていれば、下にいる者が圧倒的に有利になる。

俺は渾身の気合で、大きく円を描き上空を切り裂いた。

「ドスン」と、肉を切り裂く感触。確かな手ごたえがあった。

そして、武蔵は落ちて来て倒れた。

武蔵は俺に向かって言う。

「なぜ上と判った」

少しその表情は悲しそうにも見えた。

俺は、武蔵に尊敬の念を込めて話した。

「私はあなたとは生きた時代は違いますが、あなたが真剣勝負した吉岡一門や、巌流島での佐々木小次郎との戦いの逸話があまりにも有名な為、あなたの必殺技が上からという事を知っていたのです。剣聖武蔵殿」

その言葉を聞くと武蔵は、満足気に言った。

「そうか、拙者の事は時代を超えて聞こえておったか‥‥」

「思えばここ数年、衰える気力と体力との戦いもあり、死に場所を探しておった」

「生涯初めて戦いに敗れはしたが、我が人生、時を超え、剣聖として名を刻みし事も分かり、もはや悔い無し」

「真剣勝負の場が死に場所となり我が望みは叶った。最後に、痺れる様な命のやり取りをさせてもらい、おぬしには感謝いたす」

そう言って息絶えたのだった。

宮本武蔵との戦いを終え、ふと横を見ると、傍の桃さんも苦戦していた。

よく見ると法師の方も、姫を加え二対一の戦いとはいえ、防戦一方で、持ちこたえるのがやっとの様子だった。

俺は一瞬迷ったが、すぐ近くにいた桃さんに加勢する事とした。

桃さんと戦っているその男の体の動きは、左程大きくも、早くも見えないが、見るからに無駄な所作がなく、桃さんの攻めにゆるりといなし対している様に見えた。

だがよく見ると、その剣先の動きは、体の動きとは裏腹に確認できない程早くて強いものだった。

例えれば、決して剛の剣ではなく、相手に合わせて戦う自然体の柔の剣だった。

桃さんもかなりの剣の使い手だから、相手も本気の戦いのモードに入っていた。その時既に、その男はロボット服とヘルメットは脱ぎ捨てていた。

名前は分からないが、恐らく武蔵と同様に、どこかの時代から来た只者ではない剣豪に違いないとは思った。

俺と桃さん二人で対峙すると、男の動きは、こちらを警戒してぴたり止まった。

それからゆったりと剣を振り上げて上段の構えになると、静かに目を閉じた。

こちらも攻撃を仕掛けようとはするが、足が止まる。

踏み込めない、隙がないのだ。

男の動きも全く読めない。

この勝負は一瞬、一太刀で終わると直感した。

桃さんと俺は、目で合図をし、俺が先に仕掛ける事とした。

俺が男と剣を交え、その瞬間、桃さんにとどめを刺してもらう。

作戦はそんな感じた。

俺は、気合一閃、剣を放つ。

だが、その男は想像以上の使い手だった。

俺の剣は受けられている感触はないが、いつの間にかいなされていた。

武蔵と戦った感覚とはまた微妙に違う。

この男は俺の動きを、感覚的に予測出来る様だ。寸前の所でかわしていく。

それからいつの間にか男の剣は、反転して俺への一撃を放つ。

 「やばい、討たれた」

そう思った瞬間。桃さんがその剣を防ぎ、勢いを止めていた。

桃さんの剣は、それから直ぐに返す刀で男の胴を切り込んだ。

その男は、その攻撃を敢えて受けた様にも見えた。

自分自身も切られたが、その瞬間にその男の剣は、桃さんの肩先から斜め下に向かって強く切り込んでいた。

その男からも、桃さんからも、双方血しぶきが舞い、二人ともほぼ同時に倒れ込んだ。

桃さんも、その男も、かなりの重傷だった。

「桃さん大丈夫か」

俺が桃さんに言うと

「なんとか生きているよ」

そう言った。

もうほとんど動けなかったが、寸での所で急所をかわした様で、幸いにも致命傷ではない様子だった。

類稀な反射神経を持つ、桃さんでなければできない芸当だろう。

おれはもう身動きができなくなっていたその男に思わず尋ねた。

「あなたは、もしかしたら名だたる剣豪ではありませんか」

「なぜ、この様な時代の、こんな場所で、盗賊団なんかの手伝いをしているのですか」

矢継ぎ早に聞く。

先程の武蔵には聞けなかった事。

それはなぜこの剣豪たちがこんな場所にそれも未来の盗賊団と一緒に行動しているのか知りたかっのだ。

勿論、凄まじい剣の使い手のこの男が誰だったのか、知りたいという個人的な関心もあった。

その男は息も絶え絶えだったが俺の問いに答えた。

「拙者は鹿島新当流、塚原卜伝と申す‥‥剣の道を極め、生涯負ける事なくここまで参ったが‥‥誠に残念である」

「その方達、お見事であった‥‥。拙者は、病気で絶命寸前の家族を盗賊団に助けてもらい、‥‥その恩義に答える為、未来人の用心棒を務めておった‥‥」

そう答えながら息を途絶えた。

塚原卜伝と言えば、宮本武蔵より少し上の世代の剣豪。

生涯真剣で勝負し、負ける事しとまで言われた、これまたレジェンドのひとりだった。

盗賊団への参加は、武蔵とはまた違う理由だった。

という事は、もう一人の男も名だたる剣豪か。

果たして俺達は勝てるのだろうか。そう思うだけで気が重い。

法師の方を見ると、既に左手に大きな傷を負って血が大量に流れていた。

桃さんは既に重傷で、動けない。

俺は大声で言う。

「姫、桃さんの応急処理をしてください。後は俺が戦います」

そう言ってから法師の所へと飛んで行った。

法師は俺に言う。

「金さん、こいつは強い」

「いままで戦った人間の中で間違いなく最強だ」

「アナログの飛び道具や防具を使って姫と一緒に対抗していたが、私の実力ではとてもかなわない」

確かにこの3人目の男は前の剣豪武蔵、卜伝とはまた違う雰囲気を感じる。強い殺気が出ている殺人剣だ。

俺は法師に変わってこの男と対峙した。

既にこの男もロボットスーツを脱いでいた。そして、凄い気迫で俺の事を睨みつけている。

この男の構えと2,3回剣を交えてすぐに流派はわかった。

この男の剣は、新陰流に間違いない。

令和の時代の剣道の基礎となった流派と言われている。江戸時代は幕府指南役として名を馳せ、その後、街でも多くの道場が開かれていた日本で最も有名な流派でもある。

という事はこの新陰流の使い手は、江戸時代前後からの有名剣士に違いない。

まずは柳生家が浮かぶが、そうであれば開祖柳生雪舟斎や柳生十兵衛や上泉信綱が思い浮かぶ。

俺もその流れをくむものとして相手として不足無しだ。

それから何度か剣を交え、その第三の男の剣は剛の剣、それも多くの実戦で鍛え抜かれた殺人剣である事が改めて判る。

そんな最中、その男も俺の意外な強さに驚いた様だ。

一旦離れ、一定の間を持った瞬間、俺に問うてきた。

「拙者、新陰流 柳生十兵衛三厳と申す」

「新陰流の同門とお見受けしたが、名を名乗られよ」

そう言ってきた。

なんとあの柳生十兵衛だった。

しかしこの男、なぜか隻眼でない。

俺達の知る歴史が違うのだろうか、この後の歴史で、十兵衛は目をやられるのかどうかは分からないが、少なくとも目の前の柳生十兵衛は2つの眼がしっかりとあった。

そんな事を思いながら俺は答える。

「坂田金時と申す」

それに対して十兵衛はにこりとして言い返す。

「新陰流でこれほどの使い手でどなたかと思いきや、平安のかの武将であられたか」

「平安の世でのこの剣筋、おぬしこそが新陰流の誠の開祖であろうな」

十兵衛が言う。

俺は十兵衛に、卜伝にも聞いた同じ質問を問いかけた。

「十兵衛殿。私は腑に落ちない。なぜあなた程の道を極めた剣客が、盗賊団に協力をしているのですか」

そう言うと十兵衛は答える。

「俺の事を、剣聖や剣豪、様々に呼ぶ者もあるが、自分より強いものと戦いたい、自分の腕を試したいという本能的な性がある」

「自らの生きる時代では、敵なしと自負するが、自分より強いものがいなくなった時、生きる目的を失った」

「丁度その時、未来人に声を掛けてもらい、拙者は、渡りに船と受けた次第でござる」

「実際、用心棒となり、時間を移動する事で、他の時代の剣の達人達との戦いの日々は、拙者にとっては至福の時でござった」

「坂田金時殿とこうして剣を交えた事も、正に我が求めていた道でござる」

俺自身も、十兵衛の話を聞いていて思った。

時代を超え、剣豪十兵衛と剣を交え、命のやり取りが出来る事は光栄にさえ思えていた。だ

がここで負けるわけにはいかない。俺は生きて令和の時代に帰る。

そして、ついに十兵衛との決着をつける瞬間は、刻一刻と近づいていた。

十兵衛の剣はその一手一手が重く、時間の経過と共に俺は体力も消耗されて、押されていた。

この局面をなんとか打開したかったが、残念ながら何も出来なかった。

もう手の力も失われつつある。それにしてもこの十兵衛の力と体力は文字通り怪物だ。

この怪物と決着をつける事ができる俺からの攻撃は、もう体力的にあと1回か、せいぜい2回程度だろう。

この怪物に勝つには、自分自身の何処か致命傷を負わないように切らせ、相打ちでとどめを刺すしかもはや方法はなさそうだ。

そう思っていた矢先、十兵衛は底なしの体力に物を言わせ、怒涛の攻撃を仕掛けて来た。

上段からの脳天への一撃を一閃、振り下ろす。

おれはその剣をようやく受け止めたが、俺の剣は悲鳴を上げる様に真ん中から二つに折れてしまった。

やはり刀剣の製造技術の進んだ江戸時代とこの平安時代とでは、剣の硬度に大きく差があるようだ。

俺は剣を失い、もうまともな武器はない。

勿論他の武器を拾う余裕もない。

十兵衛は叫ぶ。

「覚悟」

そう言って再び上段から剣を振り下ろそうとした。流石にやられた、そう思った瞬間、十兵衛に向けて手裏剣が飛んできた。

十兵衛も流石に想定外だった様で、一瞬ひるむ。

俺はその隙に、大きく後ろに飛び、十兵衛と距離を保つ。

その時、俺を助けてくれたのは、姫だった。

姫は細い剣を握りしめ、十兵衛と対峙する。

十兵衛は言う。

「姫様」

「十兵衛、流石におなごを斬れませんぞ。お下がりくだされ」

そう言った。

姫はそれに答える。

「さあ、どうでしょうか。私の生まれた時代ではおなごの方が、剣の腕前も、遥かに上でございますよ」

そう言って、目にも止まらぬスピードで十兵衛に迫り、剣を振る。

そのスピードに十兵衛も改めて当惑した様だったが、姫の動きを見切る為、まずは慎重に対応している。

それにしても凄いスピードと切れのいい剣だ。

姫はきっと未来のタイム管理官の養成機関で、厳しい訓練をしたのだろう。

それから姫は俺に向かって言う。

「金さん。私と一緒に戦って下さい」

「私の実力ではそんなに長い間は戦えません。もうすぐ、私の技もこの人に見切られてしまうと思います」

確かにそうだ。十兵衛の剛の剣を姫が受け止めるのは流石にきついだろう。

俺も急いで法師の剣を借り、2人の戦いの間に割って入った。

ほんの僅かの時間だったが休めたので、体力と、姫の参戦もあり、気力も復活した。

俺が、奴の剣の勢いを止めてやる。そう思って、飛び込む。

十兵衛は冷静に剣を再び上段に構え、剛の剣をふりおろす。

俺も力を振り絞り、受け止める。

「カーン」と物凄い音がして火花が散る。

その瞬間だった。

目にも止まらぬスピードで姫が俺と十兵衛の間に割って飛び込んできた。十兵衛にとどめを刺す為だ。

俺は、さすがにこれはやった、姫は十兵衛を仕留めたな。

そう思った瞬間、残念ながら十兵衛は素早く左手で脇差を抜き、姫の剣を余裕で受け、反対に、姫を討とうとした。

俺は、姫を助けようとしたが、もう体が限界だった。思う様に反応できない。だめだ、このままだと姫がやられてしまう。

 そう思った瞬間だった。

(バーン)

強烈な爆裂音がしたかと思うと、驚くべき光景が目の前で展開する。全ての物の動きが極端に遅くなったのだ。

俺と十兵衛、2人の動きはスローモーションになり、自分自身の体感として、動きは一秒間が1分にも2分にも感じられた。実際、それ以上早く体を動かせなくなったのだ。

ところが、姫だけはスローモーションになっていない。

普通に動く事が出来ている。

その時、どこからともなく大きな声が聞こえてくる。

「お婆様、今です。とどめを刺してください」

その声に呼応する様に、姫は十兵衛の懐に再び勢いよく飛び込み、その剣先を十兵衛に浴びせた。

「ずぶっ‥‥」

鈍い音と共に十兵衛は顔面蒼白となり血しぶきが舞う。

姫の剣は十兵衛の心臓を一撃で突き刺し、剣豪柳生十兵衛は即死した。

戦いは、あっけなく決着の時を迎える事になった。

目の前で、不思議な事が起こったが、結局最後は、リーダーの姫が決めてくれた。

終わり良ければ全てよし。

兎に角、俺達と盗賊団リボーンピリオドとの戦いは終わったのだった。

そう言えば、さっきの大きな音で、スローモーションになった時、聞こえて来た声の方を見たら、一瞬俺を平安時代に送り込んだあの神様を見た様な気がしたけれど気のせいだろうか。

まあいい。

兎に角、俺達平安ヒーローズの見事な勝利だった。

結局は、敵の中で盗賊団リボーンピリオドのメンバーは、3人の用心棒を除けば、たったひとりだけだった。

最初に倒した人間が、その唯一のメンバーだったが、正体は、未来のタイム管理官、なんと姫の同僚だった。

正義の管理官が、一方で、反逆集団のメンバーでもあった。

その顔を最初に見た時、姫は大声で叫んだ。

「この人は、タイム管理官で、私の先輩です」

「正義感が強くて、とても尊敬していたのに、本当に残念です」

いつの時代も、

「善人になるか悪人になるか」、そのどちらに転ぶかは、何かほんの少し違いで決まってしまう。

そもそも時代毎に、そのルールを作る人も違うし、その後、ゲームチェンジャーが現れると、善と悪の定義さえも変わる可能性もある。

「タイム管理官か」

合点がいく。

どの時代のタイム管理官の体制が手薄なのかを知る事ができる。

おまけに管理官達を情報操作で各時代に分散させ、応援部隊を派遣させない事さえ出来たはずだ。

こうして、縁あって集まった4人のドリームチームの戦いは、厳しいものだったが、無事に俺達の勝利で終わり、姫のミッションもコンプリートできた。

今回、戦った3人の剣豪達も、様々な動機で盗賊団の用心棒を引き受けていたが、その魂は落ち着くべき所へ辿り着けただろうか。

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