俺は目覚めた。
ベッドも布団もなく、白い床の上で直接横になっていた。
「ここは何処だ?」
柱に車が勢いよくぶつかったのだから、恐らく俺は病院にいるはずだ。
だがここはどう見ても病院ではない。
あれだけの事故なら、奇跡的に回避できたとしても、体には多少の怪我があってもいいはずだが、俺の体は切り傷ひとつない。それにどこも痛くない。
真っ白な部屋みたいだが、出入口はなく、寒暖も感じない。
四方とも窓がなく、室内に物は一切ないが、不思議と息苦しさは感じない。
「そもそもどうやって俺はこの部屋に入ったんだろう」
精一杯、考えてはみるが、解決の糸口さえ見つからない。
こんな時はどうする‥‥もちろん何も良いアイディアなど出てこない。
「誰か、誰かいませんか‥‥」
大声で叫んだ。
人間追い込まれると本能で反応する。
それからしばらく叫んでいたが、少し疲れてきた。
大きく息を吸い、左右を見た。何の反応もない。
その時‥
どこからともなく、声が聞こえてきた。
窓もスピーカーもなく、誰も俺以外この部屋に人がいないはずだが、はっきりとその声は聞こえた。
「お前は死んだんだよ」
そう聞こえた。
自分の耳を疑った。
死んでいる‥‥
俺はその声の方向に向かって慌てて尋ねる。
「もう一度言ってくれ」
その声は答える
「お前は不幸な事故に遭い即死した。お前の体はもう存在しないのだ」
「そして今のお前は、魂だけでここにいる」
そして‥‥
神様と名乗るその男は、誰かの代わりに俺が死んでしまった事を、無情にも伝えたのだった。
目の前の不思議な人は神様?
俺は、その神と名乗る男と話を続けた。
「さっきは感情的になり申し訳ないです。ですが私の気持ちもわかるでしょう」
「私たちの知っている神様は、人間の願いを叶えてくれたり、運命を変えたりしてくれます」
「それに神様でしたら、全てを作ったり変えたりできますよね」
「間違いでしたら、私を元に戻してください」
一方的に話しているうちに、俺は冷静になっていた。
とにかく今の状況を変える為には、目の前のこの男に問題を解決してもらうしかないのだ。
そう思うと、自然と言葉使いも丁寧になる。
目の前にいるのは神様だと自らに言い聞かせ、信じてみる事にした。
その神様は表情一つ変えずに答えた。
「すまないね。元には戻せない」
「私にできるのは、人間や動物など、生きているものの運命を変えたり、これから生まれる者の縁を与えたり、死んだ者を何か別の生き物に生まれ変わらせる事だ」
「だから、お前を元には戻す事はできない」
続けて話す。
「私にできるのは、お前の魂を何処かで生まれ変わらせることだけだ」
「ただし、生まれ変わるのは、人間か動物化かはわからない」
「それに生まれ変わると、記憶も前世のものは消えてしまう」
私はその話を聞いて、目の前が真っ暗になった。
「生まれ変わるのなら人間とは限らないし、その時の私には家族との記憶も残っていない訳ですね」
俺はその時、そう答えるのがやっとだった。
神様は無情にも答える。
「そうだ、その通りだ」
「前回生きていた時の善行の蓄積で生まれ変わるものが決まり、生まれ変わり先も決まる」
「残忍な犯罪などを起こしたものは、再び周りに迷惑を掛けない様に、生まれ変わる先は恐らくは人間ではないだろう。多分あまり周りに影響を与えない生物だろう」
俺は、その話を聞いているうちに、絶望感が漂い、ますます落ち込んできた。