俺は目覚めた。
どうやら、神様が言った通り、生まれ変わった様だ。
周りはかすかに見える程度だ。視力はかなり落ちている。
立ち上がることも、動く事さえもできない。
それはそうだ。
「俺は赤ん坊だ」と改めて思った。
首も動かすことはできず、目だけで周囲をぐるりと見た。
抱き上げて立っている女性が俺の事をじっと見ている。
横で寝ている方の女性は、恐らく俺の新しい母親だろう。
残念ながら今までの母親とは違う様だ。
立っている女性は、寝ている女性に言う。
「男の子が無事に生まれたよ。目もしっかり開いた」
横になっている女性が聞いた。
「ありがとう。元気な赤ちゃんですか」
暫くの沈黙の後、立っている女性は怪訝な顔で、
「いや、不思議だね」
「この子、泣かないね。大丈夫かしら」
たった今、出産により生まれた。
普通の元気な赤ちゃんなら、泣き叫ぶという事か。
そう気付いてから、俺は泣き声で「おぎゃー」と言おうとした。
だが、恐らく口の周りの筋肉がまだ十分に発達していないせいか、思った様には声が出ない。
何でもいいからとりあえずは叫んでやろうと、思いっ切り声をあげた
「ギャー ギャー」
自然とそんな泣き声になった。
これが俺の生まれ変わった時の記憶だった。
確かに俺は赤ん坊だが、頭の中は昔の記憶がしっかり残っている33歳の大人のおじさんだ。
自分が赤ん坊であること自体、違和感だらけだ。
とりあえず日本語で話しているのでここは日本で生まれた様だが、この環境に慣れるのには少し時間がかかりそうだ。
「大丈夫だ。この子、元気に泣き出したよ。もう安心だよ」
立っている女性は言う
こっちもなんだか、無事に生まれてきて安心した。
とにかく今の状況を把握しよう。
そもそも、ここは何処で、いつの時代に生まれたのだろう。
何か情報がないかと思い、周りを注意深く見た。
そして、どんな些細な話も聞き洩らさないように集中した。
見渡すと、和風の居間で、障子もある。
やはり日本という事はわかったが、その雰囲気でかなり古い時代である事はわかった。
部屋の中には、クーラーやテレビなどの設備もなく、そもそも場所も私たちが知っている、病院施設ではない。
普通の部屋の布団での出産で、取り上げてくれたのは産婆。
2人の女性は、素材は麻の様だが、古い和服だ。
現時点の情報で判断すると、少なくとも明治以降ではなく、もっと古い江戸時代以前、そんな感じだろうか。
なんだか、すごく疲れた。まずは寝よう。