盗賊団の盗品の隠し場所は、平安時代の瀬戸内海にある、鬼ヶ島だった。
その島では、盗賊団の主力が不在時、鬼と呼ばれるコピーロボットが見張りと盗品管理をしていた。
だが元来戦闘能力はそれ程高いロボットではなかった。
盗賊団自身も平安時代でよもや襲われないだろうと言う思い込みや、守りが手薄なタイミングだった事もあって、果敢に桃太郎が戦いを挑んで勝利し、隠していた盗品のほとんどを持ち出していた。
そして、その時桃太郎が持ち帰れなかった盗品である「打ち出の小槌」は、たまたまその時、1匹の鬼の手により島の外へ持ち出されていた。
その持ち出した鬼を倒して「打ち出の小槌」を奪ったのが一寸法師だったのだ。
図らずも、この平安時代にいる、かぐや姫、桃太郎、一寸法師、そして俺の4人のキャスト、それぞれの独立した点が線で繋がっていた。
かぐや姫と俺は、これからの対応方針について話し合った。
決めたのは、できるだけ平和的解決を目指し、桃太郎と一寸法師と接触して、盗品ツールを返して貰うという事だった。
桃太郎、一寸法師の2人は既にかぐや姫に求婚していた。
そこで、結婚条件達成の為には、未来ツールをなんらかの形で利用しないといけない様に、かぐや姫から、依頼をした。
ツールの返還については、強制的か、話し合いによるかは、二人とそれぞれと会った時の状況で臨機応変に決める事にした。
俺はかぐや姫に「桃太郎と一寸法師も未来人ではないか」と話してはみたが、かぐや姫は、現時点でその判断はできないと言っていた。
彼女達、タイム管理官の情報では、他の時代の人間が平安時代に来ている事実が、確認できていないとの事だった。
もっとも、かぐや姫は、俺が未来から来たのだから、その可能性は十分あるとも言っていた。
ちなみに、桃太郎は貴族として順調に出世し、今では中納言となっている。名前は石上麻呂(いそのかみのまろ)。
一方の一寸法師も、大納言大伴御行(おおとものみゆき)となり、二人とも平安時代の朝廷の大物だった。
図らずも桃太郎と一寸法師、2人の平安時代とも、近いうちに接触の機会を得るだろう。
新しい可能性への期待に胸が高鳴る。
俺達は3人共、朝廷の幹部だったが、帝の少し変わった性格から来る朝廷の運営方針から、勿論、二人の様々な噂は認識していたが、これまで個別に会う事はなかった。
一方その頃、桃太郎も改めて思いに耽っていた。
明日、いよいよかぐや姫に会う。
自分の身に起こった、今までの数十年の出来事を思い返していた
平安時代、自分に与えられた名前は桃太郎。
今は、中納言石上麻呂(いそのかみのまろ)と呼ばれている。
そもそも、令和の時代、充実した日々を暮らしていた。
しかし、趣味のスキューバダイビングを楽しんでいた時に、突然の酸素不足で水難事故に会い、意識を失った。
それから目が覚めて気が付いたら、何かに閉じ込められ身動きが取れなくなっていた。
随分長い時間じっと我慢した後で、ようやく助け出された。
しかし、そこは自分の知っている令和の時代ではなく、随分昔の時代、平安時代に赤ん坊として生まれ返っていた。
閉じ込められていると思った所は母親の胎内だったのだ。
生まれた場所は、吉備の地(岡山県辺り)だった。
自分はその時赤ん坊だったが、令和の時代の明確な記憶も残っていた。
令和では自衛隊の幹部隊員だった。特に戦略立案の分野ではトップレベルの成績で防衛大学校を卒業し、自分で言うのもなんだが、将来を嘱望されていた。
子供の事から体力とリーダーシップには自信があった。
正義感が強く、勉強も出来たので、望んで防衛大学校へ入学した。自衛隊での日々は、水を得た魚の様に毎日が充実していた。
そんな自分が、理由も判らず今の状況に陥っている。
令和に生きていた時は、未婚で子供もいなかった。
両親は健在だが、最後の数年は仕事も忙しく、殆ど音信不通だった事が今でも悔やまれる。
まあ、そんな訳だから、自虐的ではあるけれど、令和の時代から俺がいなくなっても仕事を別にすれば、殆ど影響はないかもしれない。
だがやはり令和の時代に戻りたい。
思えば、自分はこの時代になぜ生まれ変わったのか。
その意味を問う平安時代での二度目の人生だった。子供の頃、両親から生まれた時の話を何度も何度も聞いたものだ。
お爺さんが山へ薪木用の雑木を取りに行っていると、川から光り輝く桃が流れてきた。
それを家に持ち帰ったお爺さんは、お婆さんと一緒にその桃を食べると、不思議な事に翌朝、2人は何十歳も若返っていて、いつの間にか前の日までお婆さんだった母親は妊娠していた。
2人は、これは神様の下さったありがたい桃のお蔭だと感謝して、生まれてきた自分を桃太郎と名付けて大切に育てたというものだ。
自分はこの話を勿論知っていた。
桃から生まれていないのが多少違うが、有名な桃太郎の話だ。
それからは、ずっと令和の時代に帰るチャンスを狙っていた。
今までの平安時代での生活の中で、その機会かもしれないと思ったのは2度だけだ。
1度目は15歳の頃、鬼ヶ島の事を父親から聞いた時。
それから、今回の竹から生まれたと噂される、かぐや姫の存在を知った時だった。
かつて鬼ヶ島に行く道すがら、生涯の生涯の友との出会いもあった。
危険予知の嗅覚が鋭く、勇猛果敢でとにかく力の強い「犬力」。情報収集能力が高く、諜報活動、模写の達人である「雉達」。動きが俊敏で、手先も器用な「猿動」の3人だ。
これも、細かい所を言うと動物でなく人間だが、桃太郎の昔話と一致している。
自分達は瀬戸内海の鬼ヶ島に向かって行った。
思ったよりもあっけなく鬼たちを倒して拍子抜けしたが、いくつかの不思議なツールとお金を持ち帰る事ができた。
お蔭で、今ではそのツールとお金を使って、高い地位と名誉を手に入れる事もできた。
今回、かぐや姫の噂を聞いて求婚し、明日対面する。
彼女は、「燕が生む不思議な貝で安産のお守り」を結婚の条件として求めて来た。
鬼ヶ島から持ち帰ったツールの中に、シェル素材で光り輝く人工授精機があった。
それは小型で使い方は判らないが、驚くべきことに英語で「Artificial insemination machine」と書いてあった。
かぐや姫が求めたのは、恐らくこれじゃないかと思っている。
そして、待ちに待った令和に帰る最大のチャンスが来る。
鬼ヶ島から持ち帰ったツールにはタイムマシンは無かったが、きっとかぐや姫は持っていると確信している。
自分がこの時代に生まれ変わった理由を確認できる日にもなるだろう。
そして翌日。
桃太郎とかぐや姫の初対面の日となり、桃太郎はかぐや姫の屋敷に着いた。
俺は、内緒でかぐや姫に隣の部屋に入れてもらい、その二人の対面の様子を伺う事にした。
暫くして、竹取の翁が桃太郎をかぐや姫の所に連れて来た。
今日も翁は、かぐや姫の有力な花婿候補に会えて、嬉しそうだった。
桃太郎こと、中納言石上麻呂(いそのかみのまろ)は、見た目は長身で立派な体格な上に、体も絞り込まれていた。
顔も、令和の時代であれば韓流ドラマにも出てきそうな感じのイケメンだった。
流石、わずか15歳で鬼たちを懲らしめただけの事はある。
大物感も満載だ。
桃太郎は、俺達四天王同様に武官で戦士だったが、知的なエリートという感じの第一印象だった。
同じ様に帝に仕えてはいるが、桃太郎と私はその時、初対面だった。
帝が皆を集めるのを嫌い、その機会が無かった事もあるが、桃太郎は朝廷の重責を担う身で、長年全国各地の責任者を務めていた事もあるだろう。
今回も、かぐや姫は、俺の時と同じようにライトの光を桃太郎にあて、「自らは月から来た」と言う説明をして、桃太郎の反応を見ようとしていた。
だが、桃太郎の反応は俺とは違い、驚くべきものだった。
ライトが光った瞬間、体を伏せると目にもとまらぬスピードで「匍匐前進」をし、かぐや姫の元へと近づいた。
そして、大声でかぐや姫に向かって叫んだ。
「どうしました?」
「かぐや姫、大丈夫ですか」
かぐや姫と俺は、その桃太郎の人間離れした俊敏な動きに、呆然としてただ眺めていた。
それ程、桃太郎は、見事な反応を見せたのだ。
俺も長く戦士として戦い、想定外の事が起こった時、臨機応変に対処する事には多少の自信があった。
だが、桃太郎にはとても敵わないとその時悟った。
俺の時は、かぐや姫を守りに行く事などとてもできなかった。
桃太郎はある意味、プロの動きだった。
それから、桃太郎がかぐや姫に近づいたその瞬間、かぐや姫と桃太郎は、図らずも目の前の至近距離で対面する事となった。
かぐや姫は、恥ずかしそうに小さな声で話した。
「私は大丈夫です。驚かせてすいませんでした」
その時に、桃太郎はかぐや姫を守る為、体を密着していたのだ。
「すいませんが、少し離れて貰えますか」
「あまりに近いとなんだか緊張します」
桃太郎は、素早く離れてから言う。
「申し訳ない」
かぐや姫は桃太郎に話を続けた。
「あなたはこの時代の人ではありませんね」
桃太郎は答える。
「ええ、その通りです。未来から来ました」
「私は今日、貴方にお会いするのを楽しみにしておりました」
そう言ってから、桃太郎は自分の置かれた今の状況を、理路整然と説明した。
俺は、彼も令和の人間であり、同じ様に記憶を持ったまま桃太郎として再度生まれ、今まで苦労して来たと知った時、少なからず彼の境遇に共感した。
自衛隊員だった事は多少驚いたが‥‥
それから桃太郎は、依頼されて持参した「燕が生む不思議な貝で安産のお守り」をかぐや姫に見せた。それが、実際には人工授精機という事も説明していた。
かぐや姫は、その話を聞き終わってから言った。
「あなたの事をこれからなんと呼んだらよろしいですか」
そう言うと桃太郎は言った。
「きっと桃太郎の方が呼び易いのでその様に読んで下さい」
「殆ど身近な者は桃とか桃さんと呼んでいます」
そう言った。
「それではこれから桃さんと呼びますね」
かぐや姫はそう言ってから、続ける。
「実はあなたと同じように、未来から来た人がもう一人いるのです」
「今、横の部屋に待機していらっしゃるので紹介します」
そう言ってから俺に方に向かって言った。
「金太郎さん。こちらに来ていただけませんか」
俺はかぐや姫の部屋に入った。
桃太郎は言った。
「あなたはもしかしたら、右大臣様阿部御主人(あべのみうし)様ですね」
「直接はお話しした事はありませんでしたが、昔、遠目であなたの事を見た事があります」
「確か、もともとは坂田金時様で、武術の達人ですよね」
そう言ってきた。
やけに詳しい。
頼光さんと四天王以外は知らない、金時時代の事まで知っている。
俺はなんと答えていいのか分からなかったので、とりあえず言った。
「その通りです」
「あなたこそ石上麻呂(いそのかみのまろ)様ですね。こうやってお話しするのは初めてですね」
そうやって俺達は最初のやり取りをした。
その後、詳しく聞いてみると、俺が桃太郎と一寸法師に関心を持った様に、桃太郎は金太郎そしてその後の坂田の金時に興味を持っていた。
その当時から、いろいろと俺について調べていた様で、今の俺の事もよく知っていた事が分った。
興味の湧いた事の情報収集には、余念のない人物だ。
まあ、そうなると打ち解けるのも早い。
昔話の主人公に会えるのは光栄と言う思いも多少なりともある。
呼び方も、それぞれ桃さん、金さん。かぐや姫の事は、姫と呼ぶこととした。
姫から桃太郎へは、鬼が島から持ち帰った未来のツールについて、返還のして欲しいと依頼をした。
それから、かぐや姫は、これで自らに課せられた残りのミッションは、一寸法師が持っている、「打ち出の小槌」を返して貰う事だけだと話した。
そのミッションが終了すれば、俺達の事を元の時代に返すことにも尽力すると言ってくれた。
だが、その話を聞いてから、桃太郎の表情が一瞬曇った。
俺達に、未来のツールの事で伝えたい大事な事が有ると言って話を始めた。
「勿論、鬼ヶ島から持ち帰った未来のツールをお返しするのは当然の事です」
「ですがその前に、厄介な事が起こりました」
「昨日、盗賊団リボーンピリオドと名乗るもの達から予告状が届きました」
「内容は近いうちに鬼ヶ島から持ち帰った未来のツールをひとつ残らず返してもらうというものでした」
「私は、これから秘かにその者達との戦いを覚悟していました」
「と言っても、そもそもリボーンピリオドが、どんな敵なのかも判りません。判らないので、どんな戦いを挑んで来るかさえも予想がつかなかったのです」
かぐや姫はそれに答えて、盗賊団リボーンピリオドについて知っている事を全て話してくれた。
姫の住んでいた未来では、大規模な盗賊団は3つある。
リボーンピリオドは、その中では一番小さな規模だが、知能犯が多い少数精鋭主義の活動で知られる集団だった。
そしてリボーンピリオドの、盗品の隠し場所と隠れ家を兼ねたアジトは、様々な時代に分散している。
この平安時代に場所として確認されているのは、既に撤退した様だが、鬼ヶ島のみとなっている。
ちなみにその鬼ヶ島は、規模は小さく、いくつかのツールを一時保管する為の倉庫だったと思われる。
彼らは比較的穏便派の集団だ。
だが、その神出鬼没の活動でも知られ、歴史上有名だが、彼らにとって無益と判断した戦争の撲滅を、活動の主な目的としている。
一部の知的エリートや資産家などの支持もあり資金力も豊富だ。
リボーンピリオドは、過激な武闘派集団ではなさそうなので、俺達が戦う敵としては幸いだった。
もし、この盗賊団が武闘派集団なら、この平安時代の人間がどんなに強くても、未来の戦闘集団を相手に戦う事など真面にできやしないだろう。
俺とかぐや姫と桃太郎は、互いにこの戦いに臨む事を誓った。
ただ、戦う前に、もう一つやり残した事がある。
それは、一寸法師と会って、本人の意志を確認する事だった。
明日、一寸法師に会って、もし彼からも戦いについて賛同を得られれば、盗賊団に向けての行動を一緒お願いする事となる。
ちなみその時点で、俺達3人共、一寸法師も多分未来人だろうと確信していた。
そして翌日。
大納言大伴御行(だいなごんおおとものみゆき)こと一寸法師が、姫に会いに来た。
不思議な事に、一寸法師こと、大納言大伴御行(だいなごんおおとものみゆき)も初対面だった。
帝の事もあるが、偶然が過ぎる。
まるで誰かが、意図的に接触の機会を調整しているかの様に、会う機会が無かったのだ。
一寸法師については、その頃、どこかの部屋や自宅に籠もりきりになり、調査や研究、制度作成等の裏方とも言える仕事を黙々とこなしていた。
その実績があまりに素晴らしく、帝からも出仕に及ばずと御墨付きを与えていた。
それから、大納言にまで出世を遂げたのである。
事前にかぐや姫が一寸法師へ依頼したお宝は、「竜の首にある5色の玉竜の首に五色に光る珠」だった。
姫によると、それは盗まれたツールの中でも特に重要な物で、希少価値のあるアイテムだった。
そして、俺と桃さんは、前回同様に隣の部屋で控え、隣の部屋の姫と一寸法師の話が始まるのを静かに待っていた。
ちなみに今回姫は、俺達の時の様に、ライトの光を浴びせ反応を見る事はしないと言っていた。
それは一寸法師が、俺達同様、未来人である事を前提にしているからに他ならない。
最初は姫たちの時代の情報では、盗賊団以外は、平安時代では未来人は皆無のはずだった。
そうでない例を俺、桃太郎と、連続して確認して、今ではいたずらに相手を刺激せず、正攻法で事情を確認したいと思っていたからだった。
一寸法師が部屋に到着した。
姫は早速、話し掛ける。
「大納言大伴御行(だいなごんおおとものみゆき)様、お願いした宝を持参いただけたでしょうか」
そう言うと、一寸法師は自信満々に言う。
「こちらにございます」
そう言うと、綺麗な七色の宝石がちりばめられた箱の様なものを姫に渡した。
それを姫はまじまじと見つめてから、一寸法師に問う。
「あなたは、このお宝の利用方法についてご存知ですか」
そう言うと、間髪入れずに自信満々に答える。
「勿論存じております」
「この箱の先端を動かしたいものに向けて箱を開け、その中にある表示器を前後左右に動かせは、自由自在に目の前のもの自体を上昇、下降等、どんな方向へも同じように動かせます」
「望めば飛行、水中移動等さえも可能となります」
そう言った。
姫は言う。
「それではどのようにしてこのお宝を手に入れられたのですか」
そう聞くと一寸法師は意外な事に正直に言った。
「私は、かつて鬼と戦い、打ち出の小槌なる万能な道具を得ております」
「その道具を使えば、どんなものであろうと、かぐや姫のご希望の品を瞬時にお見せする事ができるのです」
そう言った。
するとかぐや姫は少し考えてから一寸法師にお願いをした。
「それではこれから私とあなたが結婚するとして、生まれてくる子供を打ち出の小槌で出して頂けますか」
一寸法師は一瞬戸惑ったが打ち出の小槌を振りながら大声で言う。
「打ち出の小槌や打ち出の小槌 私とかぐや姫の間に生まれる子供を出してくれ」
暫くの時間が経過したが、何の反応もなく子供も出てこなかった。
それを見て一寸法師は姫に言う。
「申し訳ありません。今までこんな事は一度しかありませんでした。今回もなぜ出て来ないか、自分自身でも理由はわかりません」
かぐや姫は頷きながら話す。
「やはり私の思っていた通りです」
「貴方がお持ちの打ち出の小槌は、好きなものを作り出しているのではありません」
「現在・過去・未来の世界から現実に有るものを、時空を超えて集める事ができるツールの様です」
「ですから、もともと存在しない物は出せないのです」
「それに、現実に存在していても、厳重管理され、容易に持ち出せない対策を施された未来のものは、打ち出の小槌では集められないと思います」
一寸法師はその話を聞いて、納得の表情になり答える。
「かぐや姫、貴方も未来から来た方なのですね」
「私自身も、打ち出の小槌の原理について疑問を持っていました」
「ですが、今の説明を聞いて納得しました」
「そもそも小さかった私が大きくなったのも、小槌にお願いし、伸縮ツールが出て来て、それを使ったからです」
「直接大きくなった訳ではありませんでした」
「私は、この時代に一寸法師として生まれ変わり、長年誰にも言えず、一人で悩んで来ました」
「今日こちらで姫にお会いし、何かの答えを得られるのではないかと秘かに期待していました」
「そして、今の私の唯一の望みは、再び令和の時代に戻る事です」
「今日、その可能性をこの平安時代に来て初めて感じました。実はタイムマシンも打ち出の小槌で出そうとしたのですが駄目でした」
「先程のあなたのご説明に当てはめると、タイムマシンも厳重管理されているツールだったのですね」
そう言ってから一寸法師は自分の身に起こった出来事について、俺達の時と同じ様に、かぐや姫に話しを始めた。
彼も、令和の時代から来た歴史学者だった。
俺達は3人共、令和の時代から、この平安時代に送られていた。
一寸法師は令和の時代では著名な文学部の教授だった。
専門分野は、古代から近代の幾多の戦争における戦略・戦術の分析に関する分野で、いわば古今東西の戦闘理論のエキスパートとも言える人だった。
彼は、自ら歴史を学んでいた立場だったので、当初は、今までの学びの仮説検証の場所に来たと、これから夢の様な時間を過ごせると思ったそうだ。
しかし暫くすると、残して来た妻や子供、両親等への思いが募ってきて、早く令和に帰りたいという思いに変わって行ったそうだ。
彼の話の後、姫は俺と桃さんを一寸法師に紹介してくれた。
勿論同じ目標を持つもの同士だけに、直ぐに意気投合した。
彼の事は、法師と呼ぶ事となった。
この平安の世で、俺こと金太郎、桃さん、法師、姫と4人の昔話の主人公が揃う事になった。
改めて考えてみると不思議だ。
自分自身が子供の頃から聞いたり、読んだりした有名な昔話の主人公なのだ。
今回の場合、その辺にいる普通の人間が、タイムワープして有名ヒーローになった訳だから、その立場がプレッシャーにならない限りは、それぞれ特別な感情もあると思う。少なくとも俺は少し嬉しい。
そして、図らずも俺達はこの平安時代で、一緒に盗賊団リボーンピリオドを倒すという、同じ目的の為に行動を共にする事となった。
日本の昔話のヒーロー達がドリームチームを結成した瞬間だった。
俺達4人は、一緒に戦う為、それぞれの強みを活かして役割分担をする事となった。
そして、それぞれの得意分野についての情報を共有した。
四人の特徴を改めて紹介する。
かぐや姫は俺達よりも、ずっと先の未来から来ているので、史実を十分に理解している。
そしてこれまでタイム管理官として、各種未来ツールの知識や、知力、冷静な判断力に加え粘り強さも身に着けている。
文字通りのスパーレディだ。
桃太郎は、元自衛隊幹部としての身体能力、リーダーシップ、自衛隊の経験と戦闘時の戦略的知識に長けている。
一寸法師は、歴史学者として古今東西の戦略・戦術知識。
俺は、元技術者としての知識と発想、この平安時代での戦闘実戦経験があるという感じだろうか。
俺達のチームリーダーは、メンバー全員一致でかぐや姫にお願いした。
俺達3人は姫のミッション達成を助ける為に集まった。
さしずめ「かぐや姫三銃士」というところか。
今回の戦略立案は、一寸法師が担当し、それを具体的にアクションプランに落とし込むのは桃太郎を中心に検討した。
俺は、未来のツール機能を姫から聞いて、最大限にその効果を発揮できる様に、活用方法について試行錯誤した。
姫によると、盗賊団リボーンピリオドの活動理念は、「現実の世界は過去の過ちから作り出されたもの」であり、自分たちが過去の過ちを正して、本来をあるべき方向へ導き、世界再生を実現する事だった。
リボーンピリオドは、タイム管理官達と、あらゆる時代、場所で、現在進行形で戦っている事も聞いた。
勿論俺達は知らなかったが、俺達が住んでいた平成、令和の時代でも実際に暗闘が行われているそうだ。
また、ボーンピリオドは、自分たちはあくまでも義賊集団と称し、ポリシーは、「殺戮は行わない」、「盗む時には予告しそして正々堂々と盗む」「私的ないしは無用な歴史の変更は行わない」を掲げている。
まるで江戸川乱歩の怪人20面相の様な奴らだなと思って、姫の話を聞いていた。
奴らの手法は、登場方法や攻撃の仕方に、決まったパターンが無く毎回違っていて、対策を事前に準備するのは難しい。
ただ、義賊を名乗るだけにいつも事前に「予告状」を送って来ていた。
現時点では、きっと俺達3人が桃太郎と一緒にいる事は把握していない可能性が高いので、彼ら自身が戦う相手としての想定しているのは、平安時代の桃太郎に仕える者達、それと鬼ヶ島に一緒に戦いに行った犬力、雉達そして猿動と考えているだろう。
今回は、姫の話では、他のタイム管理官は他の時代での活動で忙しく、協力は期待できないそうなので、俺達がなんとかするしかない。
勿論、姫が未来から持ち込んだ対抗ツールは、多少なり役には立ちそうだ。
こんな風にドリームリームのメンバーが様々な情報提供や、作戦を議論した。
結果、決まった作戦は、法師が教えてくれた三国志の有名な戦い、「赤壁の戦」をモデルとした。
赤壁の戦いとは、簡単に説明すると以下の通りだ。
大群との戦いを控えていたが、戦闘用の矢のストックも極めて少なく、とても戦えそうになかった。
そこで、先ずは藁人形を装備したニセの戦闘船に、相手の数十万の矢を放たせる。その後、それを素早く回収して、自らの武器として弓矢を利用したという逸話だ。
策士はあの有名な蜀の諸葛孔明だった。
今回、俺達も同様に、未来の集団と戦えるだけの武器も戦闘ロボットも無い。
先ずは、できるだけ多くのボーンピリオドの戦士やロボット戦闘員をおびき出し、引き付ける。
そこは、帝にお願いして、都中の兵士や、頼光さんや四天王も動員して協力してもらう。
奴らは、殺戮を好まないので、未来の科学技術を駆使し、平安時代の兵士たちを無力化するだろう。
その時、戦いの勝利を確信して油断し隙ができる。
それから彼らは、桃太郎の未来ツールを難なく盗む事となるが、そのツールは本物ではなく、姫が複製して準備したものだ。
そしてその複製ツールの中には、マイクロクレア波を強烈に発する機能のチップが仕込んである。
マイクロクレア波とは、強烈な電磁波で、周囲の電子機器の機能を停止させる事さえ可能となる。
俺達はそれを使い、ロボット戦闘員を、無力停止化させる。
それから更に、敵方の戦闘ロボットを乗っ取る。
奴らはロボット戦闘員を失い、後は何人生きている人間がいるかは分からないが、非力と言われる未来人のみが残る事となる。
これが戦いのシナリオだ。
作戦が成功した時、俺達ドリームチームの勝利は間違いない。
その夜、姫の計らいで、4人で食事会を開催した。
彼女は、俺達令和の時代の事にも精通していた。未来ではそんな習慣は勿論ないだろうが、令和流に、チームをひとつにするイベントとして開催してくれたかもしれない。
姫が準備した夕食は、皆で囲んで食べるすき焼きと、焼き鳥、刺身だった。
そのメニューでも感動して涙が出そうだったが、その後姫が持って来たものを見た時には、正直目が点になった。
そこには、キンキンに冷えたビールがあった。
姫は、わざわざ令和の時代から、取り寄せてくれていた。
早速、俺はビールの缶を開ける。
「プシュ」
音と共に泡が溢れ出る。
三人共、夢中になって一気に飲み干した。
「フー」
なんだろう、自然とそんな反応が出る。
焼き鳥は、醤油と塩、それにカレースパイスの3種類の味があった。
特にこのカレー風味の焼き鳥は、絶妙なスパイスの配合で絶品だった。
そう、信じられない事に、有紀さんがかつて作ってくれた手料理と同じ匂いと味だった。
食べていて、涙が出て止まらなかった。
姫は俺の方を見てニコニコしながら言う。
「金さん。そんなに美味しいですか?」
俺は答えに困ったが答える。
「最高においしいです。今日は本当にありがとう」
俺達は、何十年か振りに、よく食べていた懐かしい御馳走にありつけた。
令和にいた頃は、当たり前だった日常が、こんなに感動と幸せな気持ちになる事を、食事をしながら改めて気付かされた。
そして、この時代まで来て生きている意味や、令和への帰還への意思を再確認できた。桃さんも法師もきっとそうだと思う。
姫が言う。
「私の時代では基本的に生命体として生きる為の栄養は、サプリメントか流動食で摂ります。食べ物で胃を使い内臓に負担をかける事は、寿命を縮めて病気の発症リスクも高めるので敢えて食べる事はありません」
「ですが、様々な公私のイベントで過去の時代の食べ物を食べる事も稀にはあります」
「遺伝子上の各家庭で、先祖から代々引き継がれた料理もいくつかあります。ちなみに今日の焼き鳥のカレースパイスは、私の先祖代々伝わっている秘伝のものです」
そう話したが、その後、少し恥ずかしそう言った。
「実は、他人から変わり者と見られるので、私はあまり人には話しませんが、同じ時代の人とは少し違って、過去の時代の食べ物を食べるのが好きです」
姫は続ける。
「過去の料理の様々な匂いが、食欲や生きる気力漲らせてくれます。たまらなく好きです」
「それがなぜなのか、理由は判りませんが、私自身は先祖から引き継いだ遺伝子が影響していて本能的なものだと思っています」
「私の住んでいた時代は料理を作る時、匂いは基本的調理時に除去します」
「殆どの人は、その成分や栄養には関心がありますが、匂いそのものに関心はなく、そもそも食欲を持つ人も稀なのです。その辺りは昔に比べて人間の本能の一部が退化しているのだと思います」
「一般的にはそうですが、私は不思議な事に様々な美味しい料理の匂いにどうも反応してしまって、食欲が増す様です」
「今日も勿論、皆さんに喜んで貰う事が第一なのですが、私自身、一緒に令和の時代の食事が出来て、本当に楽しいです」
「皆さん、今日の決起集会、満足頂けたでしょうか」
クールで感情をできるだけ表に出さない姫から出た、極めて人間らしい言葉だった。
「姫、ありあとう」
俺が言うと桃さんも続く。
「満足もなにも、こんなに感動した食事は初めてかもしれない」
「皆さん、チーム一つになって必ずやり遂げましょう」
法師も同様にテンションは上がっていた。
皆の口から自然に出て来る言葉は、今夜の決起集会の成功を意味していた。
彼女は、今夜、喜びの感情が表情に溢れている。本来はこちらの方が本当の姿かもしれない。
その人間性は、令和の人間から見ても、魅力的な人に映った。
前にも言ったが、姫が有紀さんとどことなく雰囲気が似ている事が、そう思わせているのかもしれない。
まあ、懐疑的に見れば、彼女はタイム管理官のプロだ。もしかしたら今日のイベント自体、チームミッション達成の為、計算済みで企画したものかもしれない。
令和から来た俺達に向け、心が共鳴する様に、令和流の演技をやっているのかもしれない可能性も0ではないだろう。
だが、今はそう思わない様にしておく。
俺は今夜、このドリームチームの心がひとつになれた事が素直に嬉しかった。
戦いの準備は整った。
