長編オリジナル小説 「平安ヒーローズ 真 竹取物語」 (4-8 物語番号29)第四章:真 竹取物語 第八話(最終話):真 竹取物語

小説

全ての戦いは終わった。

先ずは、大怪我をしていた桃さんと、法師の治療が最優先だった。

二人とも気を失う程の重傷だったが、驚くべき事に、未来の治療ツールで姫が応急処置をしてくれたおかげで、意識は直ぐに戻った。

姫は怪我の完治は少し時間がかかるが、命に別状はないと言っていた。

令和の時代の医療技術なら致命傷になっていたかもしれない。

未来の医療ツールは、死亡時だけは細胞保存程度しかできないそうだが、大概の怪我の場合、速効性のある効果的治療が可能との事だった。

それから、俺達は今後どうするかについて話し合った。

まずはこの戦いの現場の後片付けだ。

平安時代に生きている誰にも、未来や他の時代に関わる事について気づかれてはならない。

戦闘ロボット、宮本武蔵、塚原卜伝、柳生十兵衛の遺体を姫に空間移動装置で隠して貰った。その後、盗賊団の手によって眠らされた平安時代の人達は、直ぐに起こした。

帝や四天王をはじめとした平安時代の人達に対して、どの様に今回の顛末を説明するかについては、四人で慎重に議論した。

姫によるとこの時代全ての人の記憶をまとめて、それも一瞬で書き換える為には、未来にある大型の機械が必要で、今あるツールでは難しいとの事だった。

結局は、それらしい話を作り、皆に信じてもらうしかないという結論になった。

まず皆には、月から来た人達は、戦いの末撃退はしたものの、かぐや姫は月に連れて帰ってしまったと伝えるべきだろう。

もともと俺や桃さん、法師が生まれた時の話もそうだったが、この時代の人達は、神様や月の人、祟りなど目に見えないものに対しては、随分物分かりがいい。

それから、帝には、それらしい話を報告書としてまとめ、俺が上奏する事となった。

令和の時代に作家志望であった俺からしたら、報告書作成は得意分野だ。一夜にして、今までの顛末についての簡単な報告書を書き上げた。

その際、姫は月に帰ったが、残りの俺達三人についても、それぞれ信じて貰えそうなシナリオを準備した。

桃さんと法師は月の人達との戦いで残念ながら亡くなってしまい、その姿も敵に消されてしまった。

更に、残った俺は、今後のシナリオとして、記録を帝に報告してから直ぐに神隠しに遭って、行方不明になる事とした。

俺は、早速翌日、帝の元へと行った。

帝は、月からの攻撃を撃退した事は大そうお喜びになった。

だが、姫が月に去った事と、桃さんと法師が死んでしまった事に、大そうお悲しみになった。

帝は俺に命じた。

「かぐや姫がいなくなった事は誠に残念である」

「今回の朕への報告書を元に、かぐや姫の生い立ちから、月に帰って行くまでを物語にしてはくれまいか」

「それから、一緒に大納言と中納言が亡くなったのも誠に遺憾である。大納言と中納言の功績を後世まで伝わる話も同様に残して欲しい」

「最後に、今は、死んだ事になっている坂田金時。そちについても同様に功績を伝説としてまとめてはくれまいか。朕は、以前阿部家の養子となる様に懇願した時、坂田金時は死んだ事として欲しいと言った。今でもそちには申し訳なく思っておる」

勿論、俺はお断りする事もできず、承諾した。

それから帰って来て、その事を皆に話した。

姫は、最初は少し困惑しながらも言った。

「あまりおかしな記録をこの時代に残したくはないのですが、不思議な物語として残すのであれば、問題ないのではないでしょうか」

桃さんと法師は否定も肯定もしなかった。だが少し不服そうに言う。

「金さん、書くのはいいけど、そんな話4つも書いたら、かなり時間が掛かるじゃないか」

「それより、一刻も早く令和に帰りたいとは思わないか」

当然の意見だ。

姫はそれに対しては、直ぐに反応した。

「皆さんの今回の傷と、体のケアにはあと1週間程かかります」

「完治してから令和の時代に帰って頂きたいので、金さん、大変でしょうけど1週間で書けませんか。そんなに長いお話にする必要はないと思います」

「それに、今回タイムマシンを利用する許可が出るのも、同じくらい時間が掛かると思います」

そう言ってくれた。

俺達は、今回の戦いで沢山の傷を負い、治療を受けていた。

特に俺は四天王として、戦いに明け暮れていたので、傷跡は体中にある。こんな姿を令和の時代に戻って有紀さんに見られると、さぞや驚く事だろう。

その傷跡も消せないか姫に相談していて、未来の再生治療ツール使ってそれを消そうとしていた。皆も俺ほどではないが同様のケアを希望していた。

俺は姫に聞いてみた。

「姫。令和の時代でさえ、生成AIで簡単に物語が書く事が可能でした。未来はもっと簡単に物語を書くツールがあるのではないのですか」

そう言うと姫は答える。

「確かに令和の時代で言う所の生成AIの様なものもありますが、表現がとても機械的です」

「特に未来の思考や表現がプログラムに強く反映されていて、必要最小限の事しか文面にならない傾向があります。平安時代の物語として書くのであれば、やはり金さんに書いてもらう方がいいと思います」

「それと生成AIとして動かす為に、そのベースとなる情報のインプットが必要ですが、この平安時代では、基礎情報が少ないので、その情報自体を準備するのに時間がかかります」

俺は、自動生成を諦めて、自身で書く覚悟を決めた。

物語を書き始めると、平安時代に来てからの長い年月について、多くの事を振り返る事にもなった。

特に沢山の人との出会いは、まるでシナリオがあり、運命の糸に手繰り寄せられている様だった。

足柄山での、元ちゃん、信ちゃん、京都に上京するきっかけになった綱さんとの出会い。

それから仕えた頼光さん。

かぐや姫と桃太郎、一寸法師。

平安時代の生活は、それなりには充実した日々ではあったが、思いに耽り、令和の時代の家族の顔が浮かぶと、書きながらも自然と涙が出て来てしまった。

それからちょうど1週間後。

帝から依頼のあった4つの物語を書きあげて上奏した。

「よくぞこの短い時間で話をまとめてくれた」

「そちが書いてくれたこれらの物語を日ノ本中に広めて、皆に伝えよう」

そう言って、帝は大そう上機嫌だった。

俺はその翌日、当初の予定通り、神隠しに遭った事にして、人々の前から突然消えた。そして、二度と平安の人達の前に現れる事はなかった。

そして、令和に戻る日の朝。

俺と桃太郎、一寸法師の三人は、この平安時代での記憶を残したまま令和へ戻してくれと姫に懇願した。

姫は少し悩んでいたが、この平安時代での4人の信頼関係からだろう。平安時代に経験した事は、決して誰にも言わない事を条件に許してくれた。

ついに出発の時が来た。

姫が、タイムマシンだと言って俺達に見せてくれたのは、驚いたことにわずか3センチ四方の小さな白い箱だった。

姫の話によると、タイムマシンは姫たちの生きていた時代から約70年前に発明された。

当初は大型のものだったが、今では小型化されて持ち運びが可能になったそうだ。

それと、姫は照れ臭そうに言った。

「実は、私事で少し恥ずかしいのですが、このタイムマシン発明の基礎技術は、私の遺伝子上の先祖の女性が関わっていました」

驚いた。

姫の先祖がタイムマシン発明者だったとは。

それから、俺達は、目を保護する為にゴーグルを装着した。

未来への移動方法は、それをかけて、半径2メートル程のエリアの円の中に入ると、そのまま令和に行けるそうだ。

ゴーグルをかけてみると、そこには令和で言うところのバーチャル映像が映っていた。

最初は青空の様な青い画面だけが映っていたが、暫くすると、突然ブルーの文字で2025の数字が浮かび上がった。

「それでは始めます」

姫は、そう言ってタイムマシンのスイッチを押した。

それからどれくらいの時間が経ったかは分からない。

俺は、目覚めた。随分長く寝た感覚はある。

今寝ている寝具は、平安時代の薄くて固い布団と比べると、天国にでもいると錯覚してしまう程、寝心地がいい。

かつで令和の時代、自分が使っていたこのベッドはフワフワで、枕の感触もたまらない。

深い眠りから覚めた余韻を楽しんでいた。

あの平安時代で過ごした日々は、もしかして夢だったのだろうか。

しかし、沢山の戦いの記憶は、はっきりと残っている。

どちらかと言うと令和の方の記憶が久しぶりだけに曖昧だった。

俺は、起き上がり、リビングへと向かって行く。

近づいていくと、あの懐かしい、食欲を誘う香ばしい砂糖と醤油の焼かれた匂いが俺を歓迎する。

「卵焼きだ」

思わず声が出た。涙が出て来た。

間違いない。

「これだ」

俺はついに我が家に戻って来た。

この瞬間の為、俺は何十年もの間、平安時代で命を懸けて生き抜いて来た。

そう思うと訳も分からず涙が出て来た。

リビングのドアを開けるとそこには愛する有紀さんの後ろ姿が見える。

自分自身を抑えられなかつた。たまらず駆け寄って、後ろから有紀さんを強く抱きしめた。

俺は、体ががたがたと震えた。

平和で幸せな令和の時代に戻ったのを改めて実感した。

ここが俺の本来いるべき場所、愛する有紀さんと香がいる時代だ。

「竜ちゃん」

「もう、朝からどうしたの。おかしいよ」

彼女は俺の方に振り向いて微笑みながら言う。

それにしても、こうやって改めて有紀さんをまじまじと見ると、昨日まで一緒にいたかぐや姫によく似ている。

よく似ているというレベルを超えて、姉妹の様にさえ思える。

かぐや姫に初めてあった時、とても他人に思えなかったのも、あながち間違いではないかもしれない。

かぐや姫は、もしかしたら、俺達の子孫かもしれない。むしろ、そうあって欲しいという願望さえある。ここからは妄想の世界に近いかもしれないが、かぐや姫が話していたタイムマシンの基礎技術を発見したかぐや姫の先祖とは、香かもしれない。俺にはそんな思いさえある。

これは、親バカのなせるものかもしれない。

今は、近い将来実現される人類初のタイムマシンの発明に、自分自身少しでも寄与したいと思っている。

それは技術者としての性だ。実際、平安時代に行って、本物のタイムマシンでタイムトラベルを経験した人間という自負もある。

将来の事は勿論分からない。

俺の志が香に引き継げるかどうかは、結局は香の意思次第だし、そもそも香が発見者かどうかさえ分からない。

ただ俺が今出来るのは、研究者としての性に忠実になる事と、香の父親として、自分の研究への思いや、姿勢を見てもらう事しかない。

そして出した結論は、コンサルの仕事をやめ、再び研究者として、光に関するプロジェクトに参加する事だった。

俺は、次の日、家族には内緒で会社をずる休みした。

久しぶりに令和の街を満喫したかった。

何処とはなしにあちこちをぶらついたが、自然と足は図書館へと向かっていた。令和に戻った事で、思い浮かぶいくつかの謎の答えを確認する為だった。

その謎とは、日本の歴史は、俺達が平安時代に行った影響で、何か変わったか。その後、悪人が少なくなり、平和な世界が以前の歴史より増えたかどうか。

それに、俺達と戦い敗れて死んでいった宮本武蔵や、塚原卜伝、柳生十兵衛の最後は、現実にはどんな風に書かれているのか。

図書館では、かなり時間をかけて沢山の本や資料を見た。

だが、不思議な事に歴史は何も変わっていなかった。俺達の数十年は日本の歴史に何も変化を加える事はなかった。

まあ、変な方向に歴史が変わっていない点は、良かったと安心した。

だが、反面、俺達の平安時代で過ごした第二の人生は、歴史に何の影響も与えなかったかと思うと少し残念な気もする。

文字通り、厳しい戦いの日々はなんだったのだろう。

あれだけ悪い奴らを懲らしめた事で、その後の歴史が、少しは平和になったとか、少しは良い方向へ変わっていたら報われたのかもしれないがそれもない。全く無かった。

それから、俺は帝に依頼されて書いた4つの物語についても気になった。

最初にむかし話について確認した。金太郎、桃太郎、一寸法師の伝説についてだ。

文面も俺の書いた物語が少しずつ設定や文面が変わっていて、物語自身は全国津々浦々の地で残されていた。

冷静に分析すると、平安時代の人々は文字を読める人も限られている事から、どうやら本としてではなく、口述で全国に広がり、その後、どこかの時代で伝説として各地で文字に起こされたと考えるのが自然に思える。

帝は俺達の伝説を日本中に広めたいと平安時代言っていたが、その通りにはなっていた。

あまりにも話の中身や設定が変わっているので、もともとの話が、俺が書いたものかどうかについても確認はできない。勿論、以前令和に生きていた時にも同じ様な話を読んだ記憶がある。

それから最後に竹取物語の原文を見つけた。

これは確かに見覚えがあった。

平安時代から残されているその物語は、帝や平安時代の人達に、かぐや姫が月に帰ってしまった伝説を伝える為に俺が書いたものと一言一句変わらず同じ文章だった。

竹取物語は公式には読み人知らずで、誰が書いたかも分からないとされている。

だが、これは平安時代に行く前、作家志望だった俺の、念願とも言えるデビュー作品に違いなかった。

そう言えば昔、何度も持ち込んでボツになった出版社の人達に、「読者に向けて小手先の受け狙いではなく、本当に自分が書きたい伝統的かつ王道の話を書くべき」と言われたが、この「竹取物語」は伝統的には違いない。なんと言っても日本最古の長編物語なのだから。

残念ながら、平安時代一緒に戦った俺達4人以外は、誰もその事を知らない。

だが、文学史に自分なりの爪痕を残せた事で、俺は十分満足だ。

その頃。

ずっと未来の世界。

その未来とは、かぐや姫の住んでいた時代から更にもっと先の未来。

令和の時代に戻った金太郎の様子を、モニター越しで見る、一人の男がいた。

そのモニターには、他にもいくつか分割された映像があり、そこには、令和の時代に戻った金太郎、桃太郎、一寸法師、おまけに元の時代に戻ったかぐや姫の姿があった。

男は、金太郎を平安時代に送り込んだ神様、正確には神様と名乗っていた男だった。

ぽつりと独り言を呟く。

「まあ、うまくいったかな」

「最後は、殺されそうになって、どうなるかと思ったけれど、なんとかお婆様を救えたな」

「何かと手間がかかって、大変だったな」

「お婆様も元の時代に戻って来る事ができて、元気そうでなにより」

「あの時、お婆様が任務に失敗して死んでしまったのをモニターで見た時は、ほんと驚いたけど、なんとか過去を変える事が出来て良かった」

「私も危うく歴史から消されてしまう所だった。タイムトラブル保険に大金を掛けておいて本当に良かった。命拾いしたな」

「未来を変えるのは少し抵抗があったけど、そのままだと、お婆様は亡くなってしまうし、盗賊団がクーデターを起こして、政府が転覆する大事件になるのだから、結果的には防げて良かった。歴史的にも悪い事をした訳でないのだから、ルール違反にはならないだろう」

「それにしても、我ながら今回のメンバー選定は完璧だった」

「三人の先祖も、平安時代、命がけの生活で大変だったとは思うけど‥‥まあ、許しくれるだろう。かわいい子孫を救ったのだから」

「そうだ、ブッククラウドに竹取物語が収納されていたはず」

「ご先祖様の労に報いて、もう一度読んでみよう」

そう言って、嬉しそうに竹取物語の画面を開いていた。

こんな未来にも私の作品の読者がいる。

「それにしても‥‥お婆様もあちこちの時代に行かされて忙しいし、上司からの依頼内容は、無茶で危険なミッションばかりだ。今の時代なら完全にアウトだな」

「今度は、令和の時代でまたピンチが待っている。また俺が消えてしまうピンチだ。どうしようか‥‥」

そう困惑しながらも、次回の冒険に向けて目は輝いていた。

                完

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